この記事は『「パワプロ7」とその後日譚と思われる「パワプロ2010」の猪狩兄弟のシナリオがエモいので語りたい!』という内容となっています。
※この記事の内容は自分が個人サイトにアップしている記事の複製です。

📚目次
「パワプロ7」で描かれた兄弟の物語
「パワプロ2010」で描かれたその後の兄弟
7~2010の兄弟に関してちょっとだけ考察
⚾「パワプロ7」で描かれた兄弟の物語
守の弟への過干渉と、進のコンプレックスに焦点が当てられたのが「パワプロ7」です。
守は「7」では「読売ジャイアンツ」に主人公の同期として入団しています。
翌年、ドラフト会議を前にした守は主人公と矢部くんに「聞いて驚け。今日のドラフトで我が巨人に僕の弟が入ってくるんだよ」と自慢げに伝える。
しかし、進は「オリックス・ブルーウェーブ(現在のオリックス・バファローズ)」を逆指名しました。
進はそのままであれば間違いなくジャイアンツからの指名がかかっていたと思われますから、あえてオリックスを指名するということは「守と同じ球団に入るつもりはない」という意思表示とも取れます。
テレビを観て初めてそれを知った守は「な、なんだって! 何かの間違いだ!」とひどく動揺してその場から去ってしまう。
それから1年後、「進がオリックスの一軍レギュラーに定着した」という情報が主人公たちの耳に入りました。
進がジャイアンツに入るのを楽しみにしていた守ですが、進がオリックスで活躍していることを聞くと「進が一軍レギュラーだって? どうせすぐ二軍に落とされるのが関の山だな」と卑下します。
そんな守の物言いに対して主人公が「弟だからってそんな言い方はないだろ!」と憤慨すると、守は更に「ふん! 進なんてまだまだ子供さ。それがスタメンになるのは、よほど捕手がいないんじゃないのかい?」と進の悪口を続けます。
その後、オリックスとの日本シリーズを控えた守は目に見えて不調でした。
そんな守に主人公が「進くんのことだろう?」と問い質すと、守は「進は本当は僕と一緒の球団に入りたかったはずなんだ。あいつは俺がいて初めて一人前だったんだ。俺が守ってやらなきゃいけないんだ。そんな進が僕と戦いたいはずがないじゃないか」と主張し、頑なに進の意思を認めようとしません。
(※守の一人称がコロコロ変わっていますが、原文がこのようになっています)
そんな守に主人公は「戦いたくないのはお前のほうじゃあないのか? もう彼は立派なプロ野球選手だ。オレ達のライバルの一人なんだよ。お前はそれを認めたくないんだ」と指摘します。
「うるさい! 進のことは僕が一番解っているんだ」となおも食い下がる守を、主人公は「いや、解っていない! 解かろうとしていない。お前も理解しているはずだ。兄に頼らなければ何も出来ない弟はもういないんだよ」と諭します。
主人公の説得を受けた守は長い沈黙ののち、「子供は僕のほうだったか。いいだろう。ライバルとして進に僕の実力を見せてやるか」と進と対決する覚悟を決めます。
いっぽう、オリックスでは進がエースである神童と共に打撃の特訓をしていました。激しい特訓で疲労してもなおやめようとしない進を神童は「進くん、これ以上は無理だ」と止めますが、進は「いや、まだお願いします!」と食い下がります。
以前から進に対して思うことがあった神童は、進に「そろそろこの特訓の本当の理由を言ってくれないか?」と訊ねます。
進は「僕はただ神童さんに追いつき追い越そうと……」と答えますが、神童は「そうかな? 君の感情は何かを目指すのではなく、何かに追われているような不安感を感じるんだが」と問いかける。
進はしばしの沈黙ののちに「……すみません、神童さん。僕はあなたを利用していました。兄を、猪狩守を倒すために……」と告白します。神童の投球は守と似たタイプであったため、進は対守用の打撃訓練のパートナーとして神童を選んだのでした。
(「7」の前日譚と思われる「パワプロ9」では、「神童が完全試合を達成した」というニュースを観た進が「この投球……まるで……」とつぶやくシーンがあります)
進は淡々と話を続けます。
「昔から兄さんは何でも出来た。だから兄さんは僕をかばってくれた。僕はいままで兄さんがいたから試合に勝てた。兄さんがいたから僕は優秀な捕手であれた。僕はいつまでも猪狩守の弟でしかないんだ。僕は兄さんを尊敬する反面、憎んでいた、妬んでいた。だから兄さんを……」
兄を超えるために野球をする進に、神童は「君はそれで満足なのか?」と訊ねます。「神童さんに僕の気持ちはわからないんだ」と進が返すと、そこに主人公が「野球をなめんな!」と割り込みます。
「俺たちはプロ野球選手だ! 人々に野球のおもしろさを、すばらしさを伝える職業なんだ! そんな君と君の兄さんの対決をファン達が見たいと思うか!」と怒る主人公。
進は主人公の言葉を受けて「……僕はどうしたら……」と意気消沈します。そんな進に、主人公は「もっと楽しく自分の野球をしようよ。そうすれば必ず認めてくれるさ。ファンの人々も君の兄さんも……」と説得を続けます。
(すごく無責任な発言ではありますが、実際に進は「7」の続編にあたると思われる「10」や「2010」ではプロ入り3年目にして日本球界を代表する選手となっています。進が優秀な選手だからこそ主人公も「必ず認めてくれる」などと言えたのかもしれませんね)
そして、神童も「プロの道を選んだ時点から、猪狩守と猪狩進は同じプロ野球選手だ。これからは君が君の道を作るのだから」と進に語りかけます。
主人公は「見せてやろうぜ、ファンに、兄さんに。オリックスのプロ野球選手、猪狩進の勇姿をな」と進を激励し、3人はジャイアンツとの日本シリーズに挑みます。
日本シリーズ終了後、守と進は久しぶりに兄弟で会話をします。
「進、すばらしかったよ、お前のプレイ。これからはお前も僕のライバルだ」
「兄さん、僕も負けませんよ。今度、兄さんと戦う時は、今以上の選手になって来ますよ」
そう約束する守と進の表情は晴れやかなものでした。
……という感じで、「パワプロ7」はジャイアンツのシナリオでは守に、オリックスのシナリオでは進に焦点を当ててストーリーが進行し、いずれを選択した場合も最後には雪解けを迎えます。
守には守の、進には進の問題があることを作中で提示し、それを主人公が指摘して改善するという流れが双方の成長物語として綺麗なお話であると感じました。
⚾「パワプロ2010」で描かれたその後の兄弟
「パワプロ7」だけでもだいぶお腹いっぱいですが、猪狩兄弟の物語にはまだ続きがあります。それが「パワプロ2010」のサクセスです(※書き手は「2010」はプレイしておらず、それのリメイクである「2024-2025」のみプレイしているためセリフなどはこちらからの引用になります)
「2010」では進は「7」に引き続きオリックスの選手として活躍しています。ルーキーだった「7」の進とは異なり、監督から試合の全指揮を任せられるようなチームの中枢選手となっていました。また、猪狩兄弟は「球界の最強兄弟」と呼ばれるほどの選手になっているもよう。
かつて進とバッテリーを組んでいた神童は、レギュラーリーグの「レッドエンジェルス」に移籍していました。しかし「レッドエンジェルス」は捕手の人材が不足しているらしく、神童は盗塁や捕逸の連続で苦しめられています。
そんな神童のニュースを観ていた進は思い悩むような様子を見せます。
進は試合で調子がふるわないらしく、心ここにあらずな状態でした。
ある日、進がテレビでニュースを観ていると、進が住んでいるマンションに守が突然やってきます。「進……あのプレーはなんだ?」と訊ねる守に、進は「調子がよくなかっただけだよ」と答えます。
進は守が部屋にくる前に慌ててテレビを消していましたが、守はそれをわかっていたようにテレビをつけます。テレビの中では、またもや神童が全力を出せずに苦しめられている姿が報道されていました。
モニターに映る神童を見ながら、守は「進、行きたいんだろう?」と切り出します。驚く進に、守は「神童さんの投球を最高に引き出すリードができるのはオマエだけだ」と続ける。
捕手と息が合わないことによって全力を出すことができず苦しめられている神童。もともと神童とバッテリーを組んでいた進であれば彼の力を引き出すことは可能でしょうが、チームの中枢を担う選手という立場もあり神童を助けたくても容易には動けないのでしょう。
守は続けます。「オマエはプロに入ってから変わった。学生時代のボクについてくるだけのオマエではなくなった。選手の能力を引き出す才能を神童さんがオマエから見つけ出し、伸ばしてくれた」
そして、最後には「今度はオマエが神童さんにお礼をする番だな。なーに日本球界はボクたちに任せろ」と、迷っている進の背中を押してあげます。そして「……兄さん。ありがとう」と礼を述べる進に「いい顔になったな」と告げてその場を後にするのでした。
守が帰ったあと、進は心の中で「兄さん、ありがとうございます。僕はもう迷いません」と守に再度感謝の言葉を述べるのでした。
「がんばってこい、進」
「はい。兄さんは日本で、僕はアメリカで頂点を目指しましょう!」
その後、日本シリーズでオリックスとジャイアンツの試合が終わったあと、守と進はお別れの挨拶を交わします。
「来年は日米代表試合の年。いろいろ楽しくなりそうだな」と、次に対決できる日を楽しみにする2人。「オマエは必ず代表になれるさ。なぜならオマエはこの猪狩守の弟なんだからな」と進を激励する守に対し、進も「ならお互い安心ですね。だって兄さんは猪狩進の兄ですもんね」と笑顔で返します。
かつての進であれば、守の発言を笑顔で流したあと心の中で落ち込んでいそうなところですが、いまの進はそれを受け入れつつウィットに富んだ返事をしています。そんな進に守も「言うようになったな」と笑顔を浮かべるのでした。
進は悩み苦しんだ結果として「猪狩守の弟」である自分を捨てるのではなく、それも自身の一部であるとしたうえで「猪狩進」という自己を確立できたのだなと思えてここもまた感慨深い。
オリックスの司令塔としてシーズンを戦い抜くという役目を終えた進は、主人公やチームメイト達に見送られながら日本を後にします。
進の姿が消えたあとは「その後、猪狩進は神童選手と同じアメリカ、レギュラーリーグのレッドエンジェルスに入団。のちに、神童裕二郎選手とのバッテリーは日本人最強バッテリーと言われることになる」というモノローグが入り物語は終わります。
EDムービーではマウンドに立つ守のイラストが最初に流れ、続けて阿畑さん、あおいちゃんなどレギュラーキャラのイラストが流れたあと、いちばん最後に進のイラストが流れます。
大きな荷物と航空チケットを手にし、飛行機を見上げる進。その顔にもう憂いは見えませんでした。

今回のサクセスは進が主人公なのでは? と思えるような素敵な演出なのでした。
💭7~2010の兄弟に関してちょっとだけ考察
「7」の守の言動を眺めていると、進のコンプレックスは本人の内向的な(不満やわがままを口に出せない)性格や周辺環境にも起因するのでしょうが、守の「行き過ぎた庇護欲」も大きく影響しているのではないか……と感じました。
庇護欲というのは、弱い者や立場の弱い人を守り、助けたいという欲求のことです。弟を持つ兄である守は、幼い弟の世話をするうちに庇護欲が育まれたのでしょう。
しかし、守のそれは「行き過ぎた庇護欲」であるようにも感じられました。
「行き過ぎた庇護欲」というのは、相手の自己決定権を無視し、相手の自立を妨げるほど相手を過度に守ろうとすることです。これには相手の自己肯定感を低下させたり、関係性が一方的になることによって精神的に疲弊させる可能性があります。
進の卑屈とも取れる言動の裏にはこういった守の過干渉も影響しているように感じました。
例えば、各タイトルの守が見せる「主人公に打撃を教授してもらおうとしている進を止める」「外出先で主人公と遊んでいる進を連れ戻す」「進がドアを開けるより先に進の私室に入ってくる」といった行動には「行き過ぎた庇護欲」に伴う「進の自己決定権の無視」が生じているように感じられました。
そして、「7」での守は「進がオリックスへの入団を希望したこと」や「守との対決を望んでいること」を頑なに認めず、「進にそんな意思はないこと」や「進には自分の庇護が必要であること」を主張します。
それらの言動から守は無意識のうちに進に対して「自分がいなければダメな弟であること」、ひいては「自分より劣る存在であること」を望んでいたのではないかと感じられます。守自身も主人公に指摘されてようやくそれに気がついたようでした。
そういった背景があるからこそ、「2010」の守が進のレギュラーリーグ進出を後押しして「日本人最強バッテリー」の一翼になるきっかけとなったというシナリオがとても好きなのですよね。
弟が自分なしでもオリックスの一軍レギュラーとなったことすら認めたくなかった、弟が自分なしでも立派にやっていけることを認めたくなかった……そんな守が、自分ではない相手と組んで世界で活躍している進のことを祝福できる。その変化が、本当に進のことを大切にしているんだなと感じられてとてもいいと感じるわけです。
7~2010の猪狩兄弟の物語は「進が守に対して抱いているコンプレックスを克服する(自分は兄の影でしかないという認識を改めて自我を確立する)」という話であると同時に、「守が進に対して抱いているコンプレックスを克服する(進が自分より劣る存在であることを望む気持ちを払拭する)」話でもあるのではないかと感じました。