ふらっと不足

studio_graph
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私は東京が好きで,東京に住むことは本当に便利だ。けれどそんな最強の都市は,日本中どころか世界中のみんなに知られてしまった。便利すぎる東京は,便利すぎるがゆえに,そこら中から人を集め続け,さまざまなものが人気になってしまっている。

人気とふらっとさは,トレードオフだ。人が多すぎる東京で,人気のなにかを体験することは,もはや「ふらっと」はできない。予約するか,行列に並ぶしかない。ちょっと背伸びしたいいお店に行くとか,いいホテルに泊まるとか,コンサートに行くとか,そういうことに予約や行列が必要なのはわかる。けれど,お花見をしに公園に行くとか,雑な居酒屋で飲むとか,美術館に行くとか,バーベキューをするとか,カフェに行くとか,そういうことにも予約や行列が必要なのは,少し悲しくもなる。予定を決めて予約するときは楽しみでも,なぜか直前になってモチベーションが不足してしまうこともあった。

予約と行列が嫌ならば,家でゲームしたり映画を見たりすればいいんだろう。ふらっとそのへんのお店に入ることだってできる。けれど天気がいい日も,天気がよくない日も,私はふらっと出かけたくなってしまう。せっかく一緒に過ごすなら,予約と行列のコストを払ってでも,ちょっとだけ人気のなにかを体験したくなってしまう。

ふらっとしたくて旅行に行くのかもしれないな,とも感じる。地方に行ってレンタカーを借りてしまえば,私たちはあまりにも自由だ。少しマイナーな観光地に行ってしまえば,そこに人なんかいなくて,予約とも行列とも無縁だ。気の向くままに車を走らせて,目についたお店に入ったり,直売所や道の駅に寄ったり,そういう旅行で「ふらっと」を補給してきた。

ランニングしたり,自転車に乗ったりするのが好きなのは,ふらっとしたいからなのかもしれない。じぶんの足でどこかに出かけるのは,人が多すぎる東京に残された数少ないふらっとだ。そこには予約も行列も必要ないし,体力さえ許せば,どこへだって行ける。もちろん東京より地方の方が楽しめるのだけれど。

しばらく東京に憧れて,東京にしがみついて生きてきたけれど,そのうちふらっと東京を離れるのかもしれない。

@studio_graph
こういう文章を書けるようになりたい。