遠出が好きじゃない。車は週に5日は乗るのに、遠くに行きたい欲はない。クルマ好きな人は沢山いるけど、僕は移動手段として車があればそれでいいと思っているから、こだわりなく軽自動車に乗ってる。雨と風が凌げて、移動先に行ければなんでもいい。
とはいうものの、なんとなく時間ができた日曜日に思い立って遠出することにした。飛行機が見たかった、たったそんな理由で高速に乗った、久しぶりに。いつぶりか覚えてないから、少し緊張する。道間違えなきゃいいけどなと、スマホに行き先を告げる。静かなJAZZも流す、まるで自分に落ち着けと諭すように。
昨年観たグランツーリスモを思い出す。感動したのに脳裏に蘇る映像はクラッシュしたシーンばかりで、ちょっとだけ嫌いになる。そして後悔した、観たことを、高速に乗ったことを。だけど車は何の問題もなく、前へ進む。アクセルを少しだけ踏み込み車線を変え、追い越す。何キロ先で左方向へ進めとスマホは行き先を示す。加速してるのに、景色はゆっくりと流れる。
遠くには行ける、でも行かない。遠くに行くにはまず、靴を履いて、玄関を開ける必要がある。その行動に心踊る瞬間が1つもない。目的地に行くまでのプロセスに意味を見出すことができないから、行かなくて良いと結論付けてしまう。何かをこじらせている。
眼の前にはとても遠いところへ行ける飛行機が行き交って、命と思い出を運んでいる。それを眺めていた、1時間くらい。何を思えばいいのやら、良くないニュースが目に映り、めでたくもない年明けとなってしまった2024年。それでも、遠くへ思いを馳せ、目的地へと誰もが旅をする。
日が落ちはじめ、来た道をなぞるようにスマホは自宅へと誘う。すっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲んでから、ハンドルを握りアクセルを踏み込む。無事に帰れますようにと、明日も晴れますようにと。