「アキハバラ電脳組」というSFロボットアニメが好きだった。
どんな話なのかは上記リンクを見てもらえるとわかると思う。
作品の存在は、小学生のころなかよし(少女漫画誌)で知った。このアニメのコミカライズが連載されていたのだ。だけれど当時テレビをあんまり自由に見せてもらえなかった関係で、ほとんどアニメについてはリアルタイムで追っていない。大学生のころにDVDを買って、後追いする形で一気に好きになった。
1. デザイン
好きだった要素はいろいろある。まずキャラデザだった。それまでロボットアニメを観たことがなかったから、オタクっぽいプラスチックなつるつるしたキャラデザがとても斬新で魅力的に映った。それに魔法少女ものみたいなカラーリングがすごくかわいかった。
それと、ロボットのデザインも好きだった。女性の身体の曲線美を強調したデザインになっていて、なんかエッチで優雅なのが良かったのだ。膝〜ヒール部分の造り込みがかっこよすぎるし、メカニックに包まれていない部分はピタピタのラバースーツみたいになってるのも好きだった。そしておっぱいがでかい。とにかくでかい。いつも可愛がってるおもちゃの電脳ペットが、いきなりグラマーな高身長イケメン美女に変身して自分を守ってくれるの最高すぎる。主人公たちの電脳ペットをさらいにくるお姉さん集団もおっぱいがでかい。おっぱいありがとう。
2. 関係性
わたしは、主人公の花小金井ひばりとライバルの大鳥居つばめの仲が徐々に縮まって、最終的にかけがえのない友達になっていく様子が本当に好きだった。
つばめは、主人公たちの電脳ペットを狙う敵の一味として登場した。その後は転校生として彼女たちの学校にやってくるが、感情の起伏に乏しく協調性に欠けており、「あそぼう」と言ってきたクラスメイトの電脳ペットを、ボロボロに壊すような冷酷な子供だった。彼女にとって「あそぶ」ことは、すなわち戦って相手を痛めつけることであった。どうしてそのようになったのか。それは彼女の生まれと育った環境に大きな理由があった。
主人公の電脳ペットを狙う一味は薔薇十字団(ローゼンクロイツ)という秘密結社で、つばめは薔薇十字団のなかで、クローン人間として生を受けた。つばめは養父から「この世界は煉獄だ、自分を守るためには強くなれ」と教えられる。人間らしい感情をくだらないものだと考えていた養父は、つばめをそういった情緒から遠ざけ、感情のない兵器として育てようとしていた。つばめ個人としては養父から愛されることを無意識下で求めながらも、彼や薔薇十字団の野望のためにずっと感情を押し殺して生き続けており、どこかで常に満たされない孤独を抱えていた。思えば彼女にとって「あそび」は彼女自身に生きる意味を与え、アイデンティティをより強固にするための鎧だったように感じる。
そんな彼女がある日、ひばりに負けた。ひばりも彼女の知らないところで苦悩し成長しながら、強くなっていたのだ。大きな挫折を味わい、養父からは見限られ、つばめは帰る場所を失ってしまう。
雨が降りしきる街中で、ぼうっと立ち尽くしていたつばめ。そんな様子を見かけて心配したひばりは、つばめを自分の家に呼んでホットケーキをごちそうしてくれた。かつて激しく戦いあった仲であるにもかかわらずだ。暖かい家に招かれ、ひばりの両親とも少しばかり会話をするつばめ。しっかりしてて優しいお母さん、ひばりが好きすぎて空回りしまくるお父さん。二人がひばりのことをとても大事にしている様子が伝わってくる。
そして、ひばりが作ってくれたホットケーキをひとくち食べた瞬間に、自分が今まで知らなかった世界のことが一気に流れ込んできた。暖かいつながり。安らげる我が家。おいしいおいしいホットケーキ。そして自分が今までずっと信じてきたもののことが、わからなくなっていく。感情の整理がつかなくなったつばめは激昂して、途中で家を飛び出してしまう。そしてつばめを探しに公園までやってきたひばりに、感情をぶつけて涙をぼろぼろとこぼす。「ひばりばっかりずるい」「わたしはもう帰れない、誰もわたしを見てくれない」と。
このつばめとひばりの対話パートが、本当に本当に好きだった。わたしは後から追って好きになったけど、リアルタイムでも評価の高い回だったらしい。つばめの行動がかわいい。自分がずっと欲しくても手に入らなかったもの(ここでは思いやりとか優しさ)に触れた瞬間、受け入れることができずに怒っちゃうところが好き。なんかこういう感情の発露って人間くさくて共感できるなあと思うのだった。そうだけど、それでもわたしはおせっかいしたいんだ、ってつばめに手を差し伸べるひばりもすごい好き。ひばりは帰る家を失ったつばめを受け入れてくれて、二人は同じ家で一緒に暮らすことになった。
思えば、ひばりは周囲がどんなにつばめのことを悪く言っていても、ずっとつばめの善性を信じ続けていた子だった。薔薇十字団に対しても「つばめちゃんに悪いことをさせないで」と訴えていた。こんなに自分のことをただひたすら大切に思ってくれる子がいたら好きになっちゃうなあ…と思う。
無口で優しい子+元気で明るい子の組み合わせが性癖になったのは、この作品の影響が大きい。
3. 王子様からの自立
それと、後追いしてみて初めて気づいた興味深い点がある。萌え系ロボットアニメの文脈にありながらも、この作品の主題は「王子様に守られる状態から脱却していく」ことだった。同時期に放送されていた少女革命ウテナと、テーマがとても近かったのだ。この件に関しては、以下のブログ記事がとてもうまくポイントをまとめていてくれてるので、是非読んでいただきたい。
グラマー巨女になって戦うこの電脳ペットたちは、天才工学者クレインの手によって作られた兵器であり、新しい人類の形だった。人類の行いに絶望した彼は、宇宙に打ち上げられた巨大なお城の形をした人工衛星に引きこもってコールドスリープに入る。その間、自分の価値観にぴったり当てはまる女の子を電脳ペットに頼んで探し出してもらい、彼女たちを地球からさらって、宇宙のお城でいつまでもいつまでも楽しく暮らそうという算段だった。
クレインの追い求めたプロジェクトのなかで、ひばりたちの自由意志については全く考慮されていない。最終回で、ひばりはそのことに気づいた。がんばってねと笑顔で送り出してくれたはずの両親が、夜中にひっそりと、自分たちとの別れを惜しんで啜り泣いていた。本当にこれで良いのか?大好きな家族や友達や街を捨ててまで、わたしは夢の中で出会った憧れの王子様のいるところに行くべきなのか?自分が大切にしたいものって一体なんだろう?真っ直ぐに生きることはむずかしいから、ひとつだけ。ひとつだけ考えるのだ。わたしの本当に大切なもの、守りたいもの。
4.執着
ちなみにだが、クレインと薔薇十字団の首謀者-クリスチャン・ローゼンクロイツの関係性も、つばめとひばりの関係と同じぐらいに丁寧な描写がされていてとても好きだった。
ローゼンクロイツがクレインにとにかくクソデカな感情を抱いており、彼にそっくりなクローンを作って自分の息子にしてたりとかする。そもそも主人公の電脳ペットを襲ったのもクレインをコールドスリープから強引に目覚めさせて再会するためだったし、いろいろとヤバい。
一方クレインは自分の理想を実現させるためにローゼンクロイツを利用しているにすぎなかった、そのことがわかってもなおローゼンクロイツは「わたしは君を離さない」「お前のいない世界は闇だ」と言いながらクレインに縋りつこうとする。
薔薇十字団は妙薬エリキシルで命を長らえており、ローゼンクロイツもエリキシルの力で500年以上生き続けていたが、次第に薬が効かなくなっていた。最後は急激に身体の老化が進んでいき、彼を見捨てようとするクレインに縋りつきながら息絶える。
実はこのローゼンクロイツが死亡する回だけリアタイ視聴をしていて、絵柄が怖すぎてトラウマだった思い出がある。エリキシルで若々しい姿を保っているローゼンクロイツはデフォルメされたイケメンの姿なんだけど、急速に加齢が進行するにつれてどんどん顔が劇画みたいになって干からびていくのがマジで怖かった。
ローゼンクロイツが死ぬ間際の「君はわたしのイヴでなく、毒蛇だったのか」のセリフが印象に残ってるんだけども、大人になって一気に見返したら、あんたクレインのこと…イヴだと…思っていたのか……という衝撃が時間差で訪れたのを思い出す。この二人は…なんかBLだな…。
5.許容できない点
ここまで書いておいてアレなのだが、実はこの作品にはポリコレ的に受け入れ難いシーンがそこそこある。とある爺さん(一応物語の重要人物なのだが)が冗談で主人公のパンツをのぞいたり胸のサイズに言及したりするパートがある。これはギャグパートとして入れたんだろうなと思うが、正直いまこの時代になってこれを見るのはきついし笑えない。というか物語の主題がフェミニズム的な観点からすごく響くものだっただけに、それを完全に打ち消してしまうような笑いを入れるのは何故なんだぜ…と残念な気持ちになる。
こういう残念な点があるうえに、当時かなりヤバいレベルの作画崩壊が発生していたので、SNSで懐かしのアニメの話になったときでも、まず傑作としてほとんど話題にのぼることはない作品だ。でも、それを差し置いても、わたしはこの作品のストーリーやテーマがとても好きで、なんかもう好きな点が余りあってしょうがないのだ。とにかくわたしだけでも好きだ好きだと永遠に言い続けてイラストをたまに描きながら、これからもずっと忘れずに愛していこう、と思っている。本当についついクソデカ感情になってしまうくらい、わたしを狂わせ続けている一作なのであった。
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