夢をみた。
道端に桜の花びらがやまほど降り積もっていて、柔らかな桜の色に気持ちが弾んだ。
近くを穏やかな川が流れていて、まるで動きが止まっているかのような、研ぎ澄まされた静かな川の流れ。風情のあるその様子に、さらに気持ちが良くなる。
わたしはいつのまにか裸足で、桜の花びらの上を歩いていた。柔らかな花びらは、踏んでもふわふわなまま、色も綺麗なままだった。それがとても嬉しくて、気にせず、花びらが降り積もった道を歩いていく。
すると少し離れた場所に、紺色のワンピース型の制服を着た女の子たちが花びらを舞い散らせながら遊んでいた。
楽しそうだなぁと見ていると、その子たちに向かって、突然、強い風が吹き、桜の花びらに紛れて、急にトランプカードが現れ、辺りをぱらぱらと舞った。その不思議な光景が何とも美しく、劇的で、離れた場所でひとり感嘆する。
どうやらその子たちはわたしと同じ学年の知り合いらしく、散らばったトランプをさっきの風のように撒いてほしい、と言われ、わたしはとてもやる気に満ちて、次の風が吹く前に、と思って、急いで落ちたトランプを掻き集めた。
女の子たちは何やら校歌のような歌を唄い出し、わたしはその歌が終わるのと同時に風が来るのを予感した。思った通り、彼女たちが唄い終わると風が起こり、わたしは手からトランプを放つ。
ところが、そのうち一枚だけが川へと落ちてしまい、瞬時にこの心地好い空気が失われるのでは無いかと不安になった。
川の底に沈んだもう掬い上げられないトランプを見つめる。けれどわたしの気分は少しも悲しくなく、いつものあの痛みがない。寧ろ見惚れてさえいて、自分自身のその反応に驚きつつ、 ああ、この場所でなら悲しみを真正面から受けるのも恐くないんだ、と妙に納得した。
結局、トランプはちっとも上手く舞わなくて、みんなで残念だねって言い合う。本当に残念な気持ちなのに、それはそれで楽しい。
川には橋が架かっていて、何人かが橋の上からわたしたちのことを見ているようだった。手を振ると振り返してくれた。うれしかった。
ふと気が付くと、わたしはひとり桜の花びらが消えた川の堤防の淵を乗ったり降りたりしながら歩いている。濡れて湿ったその堤防は、なんだかやけに官能的で優しい色をしていて、あまりに心地が好いので、ため息がこぼれた。
そうした感情をじっくりとなぞりながら、歩いて来た道を振り返る。
向こうの方にふわふわと降り積もった桜の花びらの道が淡く光って見えた。
ああ。もう、