チャイム

suda
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ママは、いつもしゅう中力があるあなたはすごい、と言ってくれた。お城のちしきなんて大人顔まけよ、なんて言ってくれるもんだから、ぼくはうれしくて、しょうがなかった。

だから今日もぼくは、すなでお城を作る。はじめはいっしょに作っていたカケルくんも、同じのばっかりでつまんない!と言って、いっしょに作ってくれなくなっちゃった。毎日ぜんぜんちがうお城を作っているっていうのに、カケルくんもへんなことを言うもんだ。この前は名古屋城、カケルくんと作ったのは松本城で、大きさからなにからまったくちがうのに、どうしてあんなことを言うのだろう。

お家からちょっと遠いどんぐり公園のすな場は、いつも行ってるひまわり公園よりも広くてお気に入り。一人でいかないでってママに言われたけど、せっかく学校がお昼におわったんだから、ぼうけんしてみなくちゃなんだかもったいないような気がして。だから、ナイショで行くんだ。道のりはパパと夏休みに二人でいった時におぼえたから大じょうぶ。近くにあるさきちゃんのお家にだって、何回も行ってるんだから。

ママは心ぱいしょうだと、パパは言ってた。み来のことを少しわるい方に考えてしまうんだ、と。み来のことなんてその時にならないと分からなくて当たり前なのに!ふしぎなママ!

どんぐり公園についたら、すな場にはだれもいなかったけれど、自てん車が止まってた。ブランコには二人のりをしている上きゅう生が四人もいて、ちょっとドキドキしながら、はんたいにあるすな場に行った。ひさしぶりのすな場はパパと二人であそんだ時よりも大きく見えて、これなら本で読んだ外国のお城だって作れるかもしれない。もってきたバケツに水を入れたら、じゅんびオーケー!

ずっとしゅう中してお城を作っていたけれど、ブランコの上きゅう生たちがうるさくて、いつもよりすすみがおそい気がする。ぼくも学年が上がったら、すなにもお城にもキョウミがなくなって、あんな風におしゃべりばっかりするようになるのかな。それは何だかよく分からないけど、さみしいと思う。

チラっとむこうを見ると、一番大きい男の人と目が合った。とてもよくないことをしてしまったように思えて、あわててそらしたけど、男の人はまだこちらをみている気がして心ぞうがドキドキ早くなった。何か言われてしまうかな。体はむこうの方が大きいし、人数だって四人いるんだから四ばいだ。どうしよう、どうしよう。グルグル考えていたけど、それすらも気づかれてはいけない気がした。お城を作ることにしゅう中しなきゃ!

そう思って作りはじめてもいがいとしゅう中できるもので、気づいたら空は赤くなっていた。上きゅう生たちは、一どもこっちに近づいてくることすらなかった。これではママのことを言えないな、とニヤニヤしていたら空からチャイムが聞こえた。

チャイムが聞こえると、上きゅう生たちは帰るじゅんびをはじめたようだった。まだ明るいし、くらくなるサインのおとうふやさんも来てないのに。へんなの。

ママとのやくそくはくらくなる前に帰ること。カケルくんがいっしょに作ってくれなくなった話をしたら、ママはしかめっつらになって、ぼくはしまった、と思った。ママはおこった顔で、一人ならお出かけさせないと言ってきた。それにはぼくもびっくりして、ないてしまった(ちょっとだけね!)。そしたらパパが、どんなにぼくがすな場でお城を作ることを楽しみにしているかってママにつたえてくれた。それをきいたママはおこった顔のまま、ぼくにぼうはんブザーをわたしてきた。

「これを必ず持ち歩いてね。知らない人に話しかけられたり、危ない目や嫌な目にあったら鳴らすこと。」

いつものランドセルにつけているのとはちがうもの。星がいっぱいかかれていて、なんだかそれがカッコよくって、出かける時はいつだって、やくそく通りつけるようにしてた。

それに手をのばしてならそうかまよったのは、さっき目が合った男の上きゅう生が一人のこって話しかけてきたから。

「お前、チャイム鳴ったのに帰らないの?」

男の人はよく見たら同じクラスのカズくんのお兄ちゃんだった。知ってる人の兄弟は知らない人になるんだろうか。またグルグル考えてだまっていると、

「もう暗くなるよ。」

そう言って、となりにすわってきた。

「おとうふやさんが来たら帰る。」

「ふーん。」

話がおわったと思ったのに、カズくんのお兄ちゃんはぼくの前にすわり直した。

「なに作ってんの?」

「エディンバラ城・・・」

「知らないな。すごいの作ろうとしてるんだな、お前。」

お兄ちゃんはそう言った後も、時々ぼくにしつもんしてくるだけで、パパとちがって手つだってはくれなかった。でも、それがどうしてかうれしくて、しつもんに答えながら、エディンバラ城になるよう作った。

どれくらいたったかはわからないけれど、おとうふやさんのふえが聞こえてきた。

「ほら、豆ふ屋も来たし帰ろう。」

そう言って、カズくんのお兄ちゃんは手をさし出した。ぼくはまだお城を作っていたかったけれど、おとうふやさんも来てしまったし、ママとのやくそくもあるから。しかたなくすなをはらって、お兄ちゃんの手をにぎった。

カズくんのお兄ちゃんといっしょに家の近くに来ると、ママはぼくにむかって走ってきた。おどろいたのはそれだけじゃなくて、いつもならぼくよりももっとおそくに帰ってくるパパもいたこと。だきしめられると、かたのまわりがぬれて、ママがないていることに気がついた。

「ママなんでないてるの?やくそくまもったよ」

「心配したからよ。チャイムがなったのに帰って来ないから。」

「なんで?夜をつれてくるサインのおとうふやさんが来たから帰ってきたのに。ママは心ぱいしょうなんだから!」

そう言うとなぜかママは目をまん丸にした。

 

 後からきいた話。ママはチャイムで帰ってくるものだと思っていたのに、帰って来ないから心ぱいしてたそうだ。今までのチャイムはおとうふやさんが来た後になっていたけれど、秋になっておとうふやさんより早くなるようになったみたい。それでぼくとママの考えにズレができた、とパパは言っていた。これからは空からなるチャイムで帰ることを、やくそくさせられてしまった。

それはつまり、お城を作る時間がみじかくなるってことだからガッカリだけど、あれからカズくんのお兄ちゃんもカズくんも、ときどきいっしょに作ってくれるようになった。だから、けっきょくよかったのかもしれない。