今日の喫茶店日記(さぼうる2・神保町)

sumi_cos
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何年も思い続けていた、あのナポリタンを、今日、ついに食べた。

それは地下鉄神保町駅近くにある、喫茶店さぼうるの看板メニュー。

学生時代から、頻繁に神保町には入り浸っていた。格安で本が買える古書店に、なんだか雰囲気のいい喫茶店。好きにならないはずがない。街を流れるゆったりとした空気が好きで、当時は神保町周辺に暮らしたいとまで思っていたが、まあそれは貧乏学生には難しくて、せいぜいアルバイト先を神保町にして、なんとか毎週神保町の空気を吸うことでこの街の一部にとして溶け込もうとしていた。労働が終わった後は、三省堂をふらつきながら神田伯剌西爾で珈琲を飲んで帰るのが当時の日課だった。

そんな学生生活を送っていたのだから、神保町周辺の喫茶店やカフェはあらかた行った。もちろん、喫茶さぼうるも。でも、そこは貧乏学生。ナポリタンは食べずに、珈琲一杯で本を読んでひとときの憩いの時間を過ごすのが精一杯だった。

さぼうるは、当時から喫茶店好きには人気の有名店だったが、メディアで紹介されたのかはたまたSNSで人気になったのか、ある時から、ナポリタンめあてに人が行列をなして並ぶようになった。

人が人を呼び、平日でも混雑しているようだった。大衆的な人気店になったのはうれしいけど、こんなに並んでいるようじゃふらっとゆっくり食べるなんて敵わない。それはわたしのすきな神保町イズムではないわけだ。

機会があれば食べようと思っていたナポリタンは、「またいつか」という言葉とともにわたしのバケットリストの奥底に沈んでいた。

しかーし、時は来て2024年。

今年は「いままで行ったことのない場所へたくさんでかけたい」などと目標を立てたので、足が遠のいていた喫茶さぼうるへ、用事の帰りに立ち寄ることにした。こういう口実がないとなかなか新しい場所へ赴くこともしないのは己の無精のせいだが、仕方ない。

注文して出てきたナポリタンは大盛り。そしてソーダ(青)はレモンがちょこんと乗っていてなんとまあフォトジェニックでしょう。

何故か店内はモーニング娘。の曲が延々と流れていて、独特の趣がある。しかもどうやらカセットテープで流れているらしく、わたしの席の頭上、照明の影に隠れてBGM用に積まれたカセットがたくさん置いてあった。こういうところは純喫茶らしくていいね。

お皿も伝票も可愛かった。

横の席の女性ふたり(どうやら仕事場の同僚らしい)が延々とノロウィルスに罹った時の話をしていて、他人事じゃねーな、と思うなどした。トイレのそばに布団を敷きたい、わかるわかる。

「♪好きな人が優しかった 嬉しい出来事が 増えました」

耳に流れ込んできた、モーニング娘。のザ☆ピ〜ス! の歌詞。

素朴で、だけど、忘れてはいけないきもちだよな……と感じながらナポリタンを頬張った。好きな人がわたしに優しいだけで嬉しいと感じる、そんな日常を守りたい。

青いソーダは底を吸うと甘くて、美味しかった。

@sumi_cos
ずっとことばの海で遊泳中