甲田学人というメルヘン作家について

suoltts
·
公開:2025/12/23

この記事はOtaku Social Advent Calendar 2025 12/22の記事です。

愚かな私の勘違いにより、一日掲載が遅れたことを謝罪いたします。誠に申し訳ありませんでした。

さて、当初は一次創作物書きらしく短編小説でも上げようと思っていたのですが、推し作家である甲田学人先生が連続刊行企画を行なっていると気付きましたため、彼の紹介と宣伝をしたいと思い直しました。

この記事を読んでいる皆さんは、「甲田学人」という作家をご存知でしょうか。懐かしい!と思った方は恐らく同世代です。今も好き!と思った方はこの下の文章読まなくても良いです。

自称メルヘン作家・甲田学人

甲田学人先生は2001年に電撃文庫でデビューした「自称メルヘン作家」です。主に小学生〜高校生を主人公にしたホラー小説を得意とされており、総作品数は54冊(改訂版を含む)。現在もまだバリバリ執筆中の一線を走るライトノベル作家であり、同時に読者を選ぶ作家でもあります。

何故読者を選ぶのか。彼の文章が読みづらいから?そんなことはありません。彼のジャンルがホラーだから?それは理由としてちょっぴり。

彼の文章は、平易でとても読みやすいものです。平成出身のライトノベル作家としては癖もなく、かと言って安っぽくもない文章を書く人だと思います。

一方で、その情景描写力により、「痛い/怖い表現を書くと人によっては思わず本を閉じたくなるほどに痛く/怖く感じる」レベルの臨場感を出してくる作家でもあります。私は一時期割れたガラスと夜のシャワールームに恐怖を覚えていました(詳しく書くとR指定しないといけないので割愛)。そして本人は自分の書く文章をホラーではなくメルヘンだと仰る。【スプーン1杯ほどの、グロテスク】が彼の信条だそうですが、そのスプーンというワードで顔を押さえる読者もいるんですよ!!いや本当に。

そもそもメルヘンとは、

おとぎ話。童話。また、昔話。

※デジタル大辞泉より引用

でありますので、読んでいるこちらが悲鳴を上げたくなるような恐怖描写は果たしてメルヘンなのか。しかしグリム兄弟が蒐集した童話の類は、その表現が苛烈であるために「本当は怖いグリム童話」なんて本が出るくらいのもの。そう考えるとメルヘンを自称するのも妥当……妥当かなぁ……?

そんなクセのある甲田学人先生ですが、彼の著作って結局何があるの?と言いますと、主にこのあたりになります。

  • 夜魔

  • Missing

  • 断章のグリム

  • ノロワレ

  • 霊感少女は箱の中

  • ほうかごがかり

「聞いたこと/読んだことがある!」と思った人は私と握手してください。

これらの作品、どれも素晴らしいので本当は全作リンク付きで紹介したいところなのですが、あまりにも長文になってしまうため、現在刊行キャンペーン中の「断章のグリム 完全版」と「ほうかごがかり」についてご紹介し、記事を締めくくりたいと思います。

連続刊行キャンペーン中!

現在、KADOKAWAでは連続刊行キャンペーンとして下記のような企画を行なっています。

こうして見ると、ただ表紙を並べただけなのにポスターが大変禍々しいですね。まぁそれは良いとして、現在先生が執筆しているのは上記に取り上げられている二作品となります。「ほうかごがかり」は完全新作、「断章のグリム 完全版」は、かつて出版していた同作を数冊ごとにまとめた改訂版です。

ほうかごがかり

よる十二時、ぼくらは『ほうかご』に囚われる――。

小学6年生の主人公・二森啓は、ある日黒板に「ほうかごがかり 二森啓」と書かれていることを発見します。それ自体は誰かの悪戯だと思ってすぐに忘れてしまった啓ですが、その日の夜、12時になった瞬間に、啓は突然家の中に鳴り響いた学校のチャイムの音で叩き起こされます。居間へと繋がる襖の向こうには、何故か自身の通う学校の屋上が広がっていて──?

というところから始まる学園ホラーものです。この作品のテーマは「学校の七不思議」。皆さんも子供の頃に聞いたことはあるのではないでしょうか?トイレの花子さん、歩く人体模型、開かずの教室、十三階段。そんなもの達が「生まれたことに理由があるのなら」。……少しミステリー調に書いてしまいましたが、実際は否応なしに「ほうかごがかり」に選ばれた啓達が、夜の学校で怪奇現象と向き合うホラーサバイバル作品となっています。

また、この作品は主人公達が小学5〜6年生と大変若い(幼い)のも特徴の一つです。先生の作品の中ではぶっちぎりの幼さでして、次に紹介する「断章のグリム」でも似た年齢の子供達は出てきますが、彼らはメインの主人公ではありません。小学生特有の純粋さ、無垢さ、取り繕えなさ。そして子供だから出せる勇気。そういったものを感じながら、自身も夜の学校にいるような臨場感を味わっていただければと思います。

  • 明かりひとつない屋上に佇む影

  • お札で封じられた教室の中でこちらを見る瞳

  • 冴えざえとした蛍光灯の下にぶら下がる謎の袋

そんなものに恐怖を覚えてくれたなら、きっとこの作品は楽しめるでしょう。

断章のグリム 完全版

この世界の怪現象は全て、神の見た悪夢の泡である。集合無意識の海から浮かび上がった悪夢の泡は、個人の恐怖と混ざり合い、歪んだ「童話」となって現実世界に溢れ出す。

白野蒼衣は「普通である」ことを信条に生きる高校生。ある日彼は、休んでしまった同級生にプリントを届けに向かいます。夕方の橙色に染まる街。人も影も曖昧になる時間に彼が出会ったのは、両目をくり抜かれたまま動く女性、そして彼女を追って現れた黒いゴシックドレスの少女・時槻雪乃でした。

こちらはタイトルに「グリム」と入っている通りに、グリム童話をモチーフにしたホラーバトルものとなっています。バトルと付けたのは、こちらの作品は怪奇現象を「渡り合うことができるもの」として戦うことを選んだ者達の物語だからです。

舞台は全国どこででも。悲劇は怪異という超常現象を呼び、怪異は更なる悲劇を招く。自身も悲劇の記憶を身のうちに抱えた登場人物達は、それを「断章」という名の武器にし、発狂の恐怖を押さえつけながら戦い続ける。これはそんな救いようがない、けれど精一杯生きることを選んだ彼等の物語です。

おわりに

ホラー小説というのはなかなかとっつきづらいジャンルである、と私は思います。映画と違って一人で向き合わねばならない。文章の意味を理解するということは恐怖を理解するということであり、想像力のある人程、時には映像や絵として脳裏に浮かぶ程くっきりと恐ろしいものを見ることになる。そんな体験好んでするものか、と言われたら反論できないものがありますし、無理に薦めたいとも思いません。

ただ、私はホラーが好きです。恐怖心を煽る生々しさをエンターテインメントとして感じながら、同時に怖さの裏にある民俗学的要素に強く興味を惹かれます。

  • 人間が「怖い」と感じる感覚は何から生まれるのか。

  • どうして「お化け」が怖いのか。

  • 古今東西、似たような怪談が生まれるのは何故なのか。

そうしたことに真剣に向き合った「恐怖」一辺倒ではない物語が私は大好きであり、甲田学人という作家はそれを真摯に書いてくれる人の一人であると感じています。ただ怖いでは終わらない、「好きなものを書いていたら何だか怖くなってしまった」、そんな味のある作家です。

長くなりましたが、私の記事はここまで。年末年始のお休みに、メルヘンな悪夢を一冊、お手元にいかがでしょうか。