バレンタインデーの思い出

sushiyama
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小学校の定番のモテる男子の条件は、足が速いだった。クラスのお調子者もモテてた。野球やサッカーが上手いやつもモテてた。どうしようもないことに先生たちからも人気があった。

ではモテない男子の条件は何か?

自分の経験では、泣き虫なやつだ。

小3の4月に転校し、1週間しないうちに肺炎になり10日間入院した。まだ名前も覚えていないクラスメイトから千羽鶴が届いた。

退院したときに勉強についていけずに泣いた。その日から泣き虫が定着し、払拭されることはなかった。一度の失敗はその後の学生生活に関わる。子どもの世界は過酷だ。

小5のときにせめて運動神経を良くしようと思って地元の野球クラブに入った。会費が無料だからという理由で「なかよしライオンズ」というチームに入った。もちろん地域最弱だった。

少年野球を始めるのが遅く、残り少ないからという理由で始めたときからレギュラーだった。地域最弱のチームの中の9番バッター、ライト。意味がわからない方は検索してほしい。それなりに努力はしたが運動神経が良くなることはなかった。

そんな小学生時代を経て、中学校に入学した。同じ小学校のほとんどの多くか、同じ中学に進学するため、自分の泣き虫のイメージが消えることはなかった。

やはり運動神経をよくするしかないと思い、バレー部に入部。そこそこ見せた練習でのガッツに、上級生と仲良くなれたが、3週間の家族旅行のために夏休みの練習を欠席。夏休み明けの同級生の信じられない成長に心が折れ、退部した。

このままではマズいと思い自宅の浴室で毎日腕立て伏せをしていたが、その努力が筋肉になることは無かった。マジでなんでだよ。

教室の隅で友達と話しているとき、クラスのお調子者に勢いよくヒップアタックをされて気絶したり、転校初日の転校生に腹を殴られて泣いた。クラスの女子に「お前なら勝てる」と言われて掃除の時間に蹴られた。偽のラブレターを上履きに入れられた。筋肉がつかない代わりに爪を鍛えようと思って床に叩き続けた。学校が嫌になって仮病を使い、一ヶ月間学校を休んで復帰したとき、「レアポケモン」と同級生に言われた。たった1年でここまで嫌な思い出が作れる。

そんな自分だったが、一度だけバレンタインのチョコをもらったことがある。

ちょうど通い始めた塾で、明るく振る舞える自分を発見し、中学校に輸入し始めていたときだ。(自分の所属しているところが複数あるというのは、学校以外の自分を知るという意味でも重要だと思う。)

掃除の時間に、吉幾三の43枚目のシングル「Dream」(住み慣れた〜我が家を〜という歌詞の当時よく流れいたCMの元曲)を熱唱していると、同じ班の女子から「なんでフルで歌えるの?」と話しかけられた。

当時の自分は、友達が興味なさそうなものに詳しくなろうと思って、誰も持ってなさそうなCDを地元のワンダーグーで買ったり、図書館で借りていた。

「CD持ってるから」と答えたら「え、妹がその歌好きだから貸してよ」と言われ貸すことになった。

数日後、バレンタインデーの日、男子のほとんどがソワソワしていた。

CDを貸したその女子に急に話しかけられた。手には明らかに袋を持っている。その日ばかりはクラスメイトの視線を凄い感じた。

「なんでこんな(泣き虫な)やつが!」みんな心の中でそう思っただろう。

袋を渡されながら、「これ、妹が作ったやつだから!」と言われチョコをもらった。いや、いただいた。学生生活でその妹さんと会うことはなかったけど、その日はDreamを大声で歌いながらチャリで爆走して帰った。

そんな自分も去年中古マンションを購入し、リフォームして家族と住んでいる。レコードプレイヤーにスイッチを入れ、針を落とす。ボリュームを0にしてから、iPhoneで吉幾三のDreamを流す。

あのときのチョコの味と、まだ見たことがない友達の妹さんを思い出そうとする。

この街で一番素敵に過ごしたい。