無題

日々
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公開:2023/12/18

昨日、友人が誕生日プレゼントにリップをくれた。それからメンタルがおかしくなってしまって、家に帰って五時間くらい泣いていた。なんだかもうよくわからない。

元はクリスマスマーケットに行く予定で、待ち合わせ場所の近くにコスメショップがあった。友人がそこに入って行ったので、もう一人の友人が来るまでの間暇を潰すんだろうと思ってその後をついて行ってしまった。迂闊だったなあ。

わたしはほとんど化粧をしない。昨日も下地と眉くらいしかしていなかったし、リップは一本も持っていない。以前別の友人に選んでもらったものを一本持っていたのだが、その後三年くらい、ほとんど使えずに置いたままにしてしまって、直に口をつけたものだったこともあり捨ててしまった。人生で薬用以外のリップを持っていたのはその一本だけだ。

リップ一本も持ってないんだよね、と言ったのも悪手だった。誕プレにあげるよ、と言われた時点で脳みそがほとんど止まってしまっていた気がする。断る言葉を思いつけないまま、店員さんにリップとアイシャドウを施され、「ここのトイレめっちゃ明るいんでそっちで見るのも良いですよ!」と送り出された。店員さんにも友人にも可愛いねと誉めそやされ、わたしが油を差していないロボットみたいにぎちぎちと首を動かして頷いたのを、友人らは照れていると判じたようだった。

言われるままにトイレに向かって、ショッピングモールの廊下を歩きながら泣きそうだった。堪えきれずに少し泣いた。帰ろうかと思った。鏡で自分の顔を見たところで、「これは世間的にはかわいいと評されるべきものである」ということ以外を認識できなかった。所詮は一般的な「かわいい」の価値観をインストールするタイミングを逃した、齢23のイカれた女だ。友達の唇が赤いことをかわいと思う。まぶたがきらきらしていることをかわいいと思う。それを自分に適応することができない。気持ち悪い。帰りのバスで泣きながらアイシャドウをぬぐった指先がきらめいていて気味が悪かった。

何が嫌だったんだろう?何がしたかったんだろう?一晩明けてみても全然はっきりとわからない。

誕生日を祝われたくない。生まれてきたくなかったのに、祝われてなんと言えばいいのだろう?誕生日をよいものとする文化に、「祝ってくれてありがとう」と述べるための気力を強奪されている気分だ。全然嬉しくない。

しかし誕生日を祝われたくない、と一言言えばよかっただけなのに、どうしてそれが言えなかったのだろう。きっと泣きながらトイレから帰って、「いいよ、いらないよ」と言ったら、うまい言葉なんて言えなくても断れたんじゃないかと思う。でも、わたしは彼女の好意を無碍にしたくなかった。いつも必要以上に人のために気を回していて、後から自分の発言を後悔しているところもたくさん見ていたから、わたしのせいで悩みを増やしたくなかった。それに、泣きながらプレゼントを断るなんて異常な女すぎる。店員さんに、友人が「泣きながらプレゼントを断る異常な女の友人」だと思われてしまう。そんなことしたくない。

というかわたしだって、自分を思って祝ってくれた気持ちすら受け入れられないような人間になりたかったんじゃない。人からものをもらったり褒めてもらったりするたびに、自分が、他者が自分を思って言ってくれた言葉を受け入れることもできない人間であるということを突きつけられて死にたくなる。善意や、好意を向けてもらっているのに。

もらったものがコスメなのもよくなかった。そもそもかわいくなる気があるなら自分で買ってる。そのための気力も時間も捻出できないことが分かりきっているから手を出していないのは己の選択なのに、それが悪いと言われたみたいだった。いや、実際この歳の女性で自身の身を綺麗に見せることに興味が持てないのは明らかに少数派だし、それはおそらく世間一般としては「おかしい」んだろう。それを多数の方に引き寄せようとしてくれる友人というのは得難いものであるとも思う。

じゃあ、この身に「かわいい」を得たところで、その先で何があるっていうんだろう?メイクをして、友達に会って、「かわいい」と言ってもらう、その後数秒しか持続しないうれしさのために、わたしに必要な気力量は割に合わない。他人と恋愛感情を持ち合う文化の中に居ることもわたしにはできないから、「かわいい」ことそのものを報酬にできなければわたしは一生このままなんだろう。

メイクもまともにできないような人間の横を歩くのは恥ずかしかったのかな。それならわたしを誘ったりしなければよかったのにと思ってまた泣いた。今もまだ、喉の奥に断りたいのに紡ぐ言葉を入れられなかった空気のかたまりが詰まっているみたいだ。

昨日今日とたくさん泣いて疲れた。今日はもうやめにして眠ることにする。

@suzu_sn
息継ぎをする