学術研究の「ファン」と研究を「推す」行為を生み出そうとする意味【Vol. 002】

Suzuki SV
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背景

学術研究が理解される上で,学問分野の背景と学者の考える作法に則って理解することはもちろん重要である。しかし,それに先立ってその学問分野や問いの価値を見いだし,学問を面白がるという行為が大事ではないかと考える。研究を誤解されることを極度に恐れて理解のためのレールを敷くことより,極端に論理的・倫理的でないものを除いて多様な解釈を認めることが,研究を支えたいと思う人々の裾野を広げたり,研究に新たな視点をもたらしたりする可能性に注目したい。

この可能性をより具体化させる見方として,研究を面白がる「ファン」を増やし,「ファン」が「推す」行為を誘発するという見方の枠組みの導入を試みる。このような「ファン」や「推す」行為は既存のエンタテインメントやスポーツなどを対象としたそれらとは異なる形になるとしても,理解を促すことの前にまず楽しむという過程があることから学ぶことは多いのではないか。

問いたいこと

「ファン」が「推す」ような形で学術研究を楽しむには,まず自分なりに楽しむための視点を持つことから始める必要があると考える。学術研究におけるこの楽しむための視点の持ち方について学ぶ機会をつくり,「推せる」研究を見つけ,実際に「推し」てみることを通して,研究を支えたい人の裾野を広げられないかを試みたい。

「推す」活動としては,ひとまず研究内容に関する情報発信を試みるところから始めればよいと考えているが,将来的には「ファン」としての活動の多様性を追求する方向で進めたい。

私にできること

私の過去の研究についてはResearchmapを参照されたい。

過去私が取り組んだアカデミックライティングの学習支援に関する研究において,あらかじめ論理的思考のためのレールを敷いた環境よりも,まず直感・感情を生かし対象の中から問いを見つける中で徐々に問いを論理的に絞り込む方向で考えられる環境の方が,ライティングの質が高まる傾向を示した。この研究よりはるかに複雑かつ評価の方向性を定めるのが難しいテーマに着手することになるが,基本的な考え方を押さえた上で実現に向けて動きたい。

考察の深化・研究の実現に向けてのお願い

最初に取り組んでみたい試みのイメージとして,「働く人のための現代アートコレクション勉強会」の現代アートを学術研究に置き換えたような形のワークショップを想定している。

現代アートと学術研究では価値の捉え方がまた異なるのでまったく同じ手法でできるとは考えていない。それでも,この会の基本的な枠組みを参考にまず研究を楽しむための視点の持ち方について「研究の楽しみ方」のプロから学ぶ機会を設けた上で,「推せる」研究を探して「推し」を語ったり表現したりができる場をつくるところから始められないかと考えている。このような試みが実践できる場の準備にご協力いただける方がおられると大変ありがたい。

@svslab
人間の考える行為・問う行為に興味を持ちながら分野間を漂う学者による探求ノート。ひとつの分野に腰を落ち着けられない学者の思索にも,何か意味が見いだされることがあるかもしれないという期待で書き続けます。 lit.link/svslab