大好きだったキミの、夢をみた。

スイ.
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夢の中で、肩を抱かれた。

私はその日、肩の開いたワンピースを着ていたようで、その間からキミの手が滑り込んだことに気づいて身体を硬くした。

けれどそれは不快という感情ではなく、キミへの緊張と困惑からくるものだった。

それはまだ想いを伝え合う前のことで、そのあと向かった先はヴェネツィアにでも来たのかというような真っ赤な夕陽を煉瓦造りの家々の合間から臨むことができる公園だった。その美しい光景をスマホで写真に納めているキミを見て、私との思い出がキミのスマホの中に残ったことへの喜びが胸に広がったのを感じた。

そうなった経緯を覚えてはいないけれど、私はその時点でキミからの気持ちを確信していた。ああ、きっとこの素敵な場所で想いを伝え合うのだろう、という予感がした。

だけどそこで目覚めてしまった。

キミはどんな顔で、どんな声で、私を呼ぶのだろう。どんなふうに私を誘い、私の手に触れるのだろう。

キミと私の関係はそんなロマンティックなものではなかったのに、夢になんて出てこられたら知りたくなってしまう。

夢の続きを見れば知ることができるのかもしれないと二度寝を試みたけれど、眠ることはできてもキミはもう夢の中で動いてくれやしなかった。

キミ、というのは、何度かnoteで話している小学校の頃に好きだった人のことだ。

小学校を卒業してから接点は全くなかったものの、住んでいる「町」が同じだから、数回見かけたことがあるけれど、お互いに声を掛けることはなかった。成人式の前の日にあった小学校の同窓会でも、姿を見かけたけれど話しかけることはなかった。

夢のなかで、キミが私の肩を抱いて連れていく場所がホテルや家などではなく、公園というのが、どこまでも小学校時代で止まったままの私とキミを表していると思った。

大好きだった。ほんとうに、好きだった。

あの頃に比べたら、今の私は人としてほんとうに賢くなったと思う。あの頃の私は、自分への自信のなさ故のジコチューさで自分も他人も認められなかった。幼さのせいだと言われればそれまでだけど、とにかく私はそんな昔の私が嫌いで嫌いで仕方なくて、自分の本性を封じ込めるようにして、極端すぎて時に失敗しつつも少しずつ、自分を作って成長してきたという自覚がある。

だからあの頃の私を好きになる人なんていないと思う。ましてや、野球チームに入っていて仲間からの信頼も厚く、誰とでもうまくやれるようなキミが私のことを好きだったなんてこと、あり得ないと思う。

それでも当時は期待していた。

びっくりするくらい、くじで決まるはずの席が何度も隣または同じ班になって、「またお前か」と言いながらニカッと笑った。憎まれ口を叩き合って、「うるせーな!」と言いながらも私を遠ざけることはなかった。

教室の1番後ろで2人で隣り合って座った日、キミはひとしきり話したあとに「シーッ」と、2人の秘密だ、というかのように唇の前で人差し指を立てた。

私が折り紙でn面体を作るのにハマり、休み時間に折り紙を折っていたら「なに作ってんの?」と声をかけ、「んー、8面体を作りたいんだけど、組み立て方がわかんないの」と言うと、私が折った部品をひょいっと取り上げてキミが組み立ててくれた。

休み時間は友達とすぐに外遊びに出掛けてしまうはずのキミが、ダンスクラブの発表会を見にきてくれた。翌年、私が在籍していない発表会は見に行っていなかった。

女は嫌いだ、と私に愚痴をこぼしたキミに「私も一応女子なんだけど」と言うと、頬を赤らめた。

私が困ったときには、なんだかんだ言いながらもいつも助けてくれた。

クラスメイトと揉めて、机の上で突っ伏していた私に、クラスの中で一番最初に「どうしたんよ」と声をかけてくれた。

同じ学校の子達が何人も住んでいた社宅にあった中庭で、男子組と女子組の約束が被って合流して遊んだ日。かくれんぼでなかなか見つからない私ともう1人を探そうと、「あれ、スイ まじでどこ行った?」「俺、スイ 探してくるわ」と名指しで探しにきてくれた。

記憶は、思い出は、良かったことほど美化されるものだから、もはやこれらが当時に見た夢の話かもしれないとさえ思うけれど、そのひとつひとつがすべて、嬉しかった。愛おしかった。

もしも私が地元の公立中に進んでいたら、そんなキミとは中学も同じだっただろうし、そのなかでキミの志望校を知れば、私はキミと同じ高校を選んで進学しただろうと思う。そして、地元の公立には水泳部がないから、ほかに好きな人ができない限りはこの想いに蓋をして、野球部一択のキミと同じ、グラウンドの部活を選んで陸上部に入っていただろうと思う。

だけど現実は、私は中学で私立中に行き、高校で公立に戻ってくるものの、私の母校は彼の母校の定期戦の相手校だった。大学進学では、彼は一浪して私と同じ大学群の違う大学へ進学した。

高校3年の、定期戦の帰り道。キミの姿を見かけた。向こうも、気づいていたんじゃないかと思う。

そのとき私は、すでに付き合っていた今の恋人と一緒に帰っていた。その横をキミは、颯爽と走って通り過ぎていった。

そのとき少し目が合って、一瞬、時が止まったような気がした。

***

夢のなかでも私は今の彼氏の恋人だった。もしもあの続きがあったなら、私はキミを拒めたかな。

好きだった人、好きなままだった人ってやっぱりいつまで経っても特別だから、彼以外に私の心を揺さぶることができるのはやっぱり、キミしかいないのだと思う。だけどそれは、現在進行形の恋心なんかじゃなくて、想いを伝えられなかったという執着が見せる幻覚なのだと思う。

だからきっと、もしも同じようなことが現実で起こったとしても、そのときは迷わず「ごめん、彼氏いるから」と答えるだろう。(彼は「ワンナイトしてくりゃいいのに」と言うけれど)

だけど、恋愛とかそういうのは抜きにして、1人の人として再会して、言葉を交わせる日が来たらいいなとは思う。私が知らない期間を経てキミがどんな大人になったのか、キミの続きを純粋に知りたい。

来年同じ会社に就職してくるとか、取引先になるとか、この世界、狭いようでいて広いからそんなことは起こらないと思うけれど。

そのときは、言えたらいいな。

「紛れもなく私の初恋は、キミだったよ。」って。

@swipsy06
なんだかんだ読まれたがりだから、noteを出ることはないと思っていたのですが. note.com/swipsy_06