「舞奏競 果ての月・修祓の儀(前編)」
ボイスドラマになったことからかなり思い出深い回。
修祓の儀はそのままお祓いの儀式のこと。神聖な舞奏競を行う前に覡の心身を清める意味合いがある。舞台となる社は「歴史がある」「参加二衆とは直接関わりがない」「今現在所属覡のいない」社から選ばれる。
社関係の追記、現在はほぼ一國に大きな社は一つのみ、そこに舞奏衆が所属しているなど一社中心だが、かつては分社のような形で舞奏社があり、様々な役割をそこに持たせていたが、今はかなりの数が無く、残っているものは理由があるものばかりである。鵺雲はこの状況自体を問題視している。
三言と皋はそもそもこの会話から逆算して対比で作っているので、ここから始まったんだったな感がある。この二人については本当に書き切れていないことが多く、この会話の意味合いについてなども回収されていないので、本当に語りたいけれど語れないところでもある。昏見の次に三言と縁深いくらいの覡ではある、皋所縁。
人間のほとんど一息を高く見積もりすぎて、鬼畜なト書きになってしまった昏見の伝説のファーストペンギン台詞。根っこの皮肉屋さんなところが出ていてとても好きな台詞。収録の時、一息は無理だろうから編集で一息っぽく見せようということになっていたのに、昏見役の竹田さんが練習の末に本当に一息で言ってくれた台詞でもある。竹田さんは本編の昏見の台詞を最初から最後まで全部練習していていつかに備えていてくれたそうです。ありがたいですね。
昏見がいるのに盛り上がらない合コンなんてないだろうとも思う。ありし日の大学時代、友人に懇願されて渋々付き合い、適当に盛り上げて一時間くらいしてみんなが出来上がってきたら普通に帰る昏見。
萬燈夜帳と遠流は「机上の桃源郷」をずっと引きずっている会話をしているのに、この時まだ春惜月は出ていなかったんじゃなかっただろうか。今思えば、これだけ関係性を匂わせるのであれば、春惜月を先に出すべきだったのかもしれない。でも、舞奏競に絡んでいなさすぎる気もする。
席割りに関する比鷺の台詞はなにも遠足と給食の話だけでなく、家でも同じことが起きているので根深い。
実は一方的に比鷺のことを知っているのに、それを本人には言っていない萬燈夜帳。「ほう。俺の向かいが嫌だっていうのも珍しいな」は、「今まで会った人間は大抵初対面から自分に好感を持つから珍しい」というのと「出会ったばかりの頃から九条鵺雲は割と自分のことを気に入っていた」という前提があったので「九条比鷺は初対面からこっちに好感持つわけじゃねえんだな」という面白みもある。萬燈夜帳はあの鵺雲の弟がこんな感じだと予想もしていなかったので。
レター追記、あの鵺雲の弟として予想していたのはそれこそ鵺雲レプリカみたいな弟。「あの兄さんが才を認めた方ですか! 兄さんからお話は聞いていますよ! 貴方と競えるのは九条家の人間としての誇りです!」みたいな感じ。かなり嫌。こう考えると、萬燈夜帳の想定の九条鵺雲は萬燈夜帳を気に入りすぎている。逆に何が比鷺をこうしてしまったのかを察するのに鵺雲の存在ですぐさま納得がいくところがあるだろう。
昏見は当然くじょたんのことを知っているのでいじり倒す。
拗らせクソ野郎の語感がいい。
「舞奏競 果ての月・修祓の儀(中編)」
皋所縁がむしろ一番感覚が一般人に近く、全てにおいてフラット。全く知らない文化の中に飛び込んでいくのは十二人のうちで皋一人……かと思ったけれど、萬燈夜帳も条件は同じだった。遠流に聞いた分のアドバンテージはあるだろうか。ここから修祓の儀の最中の昏見から皋への物言いは少し刺々しい。でも、昏見の立ち位置を考えると当然でもある。
小説家の実態についてニコニコ聞いてきたので警戒心が解けたんだなと思い、この方面でいけばいいのかと合点して「本気なら俺が見てやってもいいが」という一番喜ばれそうなことを言ったのにもかかわらず全く喜ばれないどころか逆に心の距離が開けられることになってしまった萬燈夜帳の戸惑い。まだ兄とは違う弟のことを全然掴めていないので渾身のアピールが空ぶる。
『完全な真空』は存在しない書籍に対して存在しない書評をしたという形式の本で、レムの中ではかなり昏見らしい一冊だなと思いチョイスした一冊。遠流は既に昏見の本質を察しているので昏見さんらしいな、と返す。この『完全な真空』の中に「我は僕ならずや」という本の書評が載っているのだが、いわゆるこれの内容が人工知能が創造主に従わないこと、被造物が「神」に奉仕しないことを選ぶということについての本なので、まんま昏見だったりする。
遠流は実際に皋に対しかなり強い警戒心を抱いていて牽制しているのだが、それは何も今回だけのことが理由じゃない。皋がこのくらい感情を動かされるのも作中を通して三言くらいではある、昏見に対しては色々な意味で油断しているから。
昏見は一人桃園の誓い人間なので趣深い。
「舞奏競 果ての月・修祓の儀(後編)」
皋所縁を書くにあたって一番重要なところはそのエゴイスティックなところだと思う。自分の人生を舞奏に懸けるのもエゴ。世界を書き換えるような願いを抱いているのもエゴ。それを自覚しながら戦っているからこそ格好良いのだと思う。皋にとって三言はまだ子供であるというのも大きい。子供なのにこんな全部を投げ捨てようなんて目をしなくていいのに、のような。でも、後述の通りそれは同族嫌悪でしかない。
「何を言ってるんですか。愛してなきゃこんなことしませんって」はかなり奥から出てきた台詞。そもそも愛してなかったらもっと聞き心地の良いことだけを言っていただろうし、闇夜衆にも入ってないし、探偵をやめた皋所縁に会いになんか来ないし、でもそういうことを突き詰めていくと、そもそも「これは本当に相手のことを思っての愛なのか」に肉薄するのでここを考えるのは諸刃の剣。でも最後はここに戻ってくる。
三言の欲や意思がここで初めて引き出されるのがこの関係性のいいところだと思う。なんでこうなったのかを書き切れていないところがある。でもこの二人の会話と決意は初めての舞奏競に相応しいものになっているなと思う。比鷺が割って入ってくれるのもいい。三言は地元浪磯の大人達もそうだけれど、他の人が欠けた部分を補ってくれるところがある。
それはそれとして、一番最初に出てくる登場人物のイメージとはおよそ離れたところにいる六原三言、という違和感はここからずっと大事にしている。兼ね合いが難しい。
「簞食壺漿(Sound out Main-mast)(前編)」
一体このライナーノーツで何度「机上の桃源郷」の話をしただろうか。桃源郷コンビと呼んでも過言ではない。わからなくていいと言っている割には、萬燈夜帳は割としっかりと遠流の疑問に答えている。なんだかんだで萬燈夜帳は遠流に感謝しているし、ある程度その負けん気などを認めてもいる。だからこそ、遠流の舞奏における実力などには冷静かつ忖度のない目を向けがち。それは遠流が折れたりしない強い人間であると思っているからでもある。いつかは本当に自分の書いた小説の実写化で主役を演じるかもしれないと思う程度には。
追記:コンビ名、他でセットで呼ぶことがあった二人が「兄弟」とか「主従」とか「探偵怪盗」くらいかもしれない。一般名詞で特定のコンビが確定する人達。基本的に二人メインの回があるコンビだと、そのエピソードで呼んでいた。あと直接的なモチーフもある。三言と七生だと北極星とか。萬燈夜帳を抜いた闇夜は黄昏時とか。レターにあった比鷺と萬燈夜帳とかだと、この二人のメインの話が「須臾の月雪花」だから須臾コンビとか。例外、七生と去記でハムコン。
そろそろ鵺雲の名前をどこかで出しておこうという話にはなっており、比鷺とも会ったからここが最適だろうと鵺雲の名前について萬燈夜帳が言及。二部の「鵺の灰」から分かる通り、鵺雲は全く萬燈夜帳と相容れないのだが、それはそれとして切り離せない存在でもあってしまっている。本当は一番早く萬燈夜帳の「他人」になれる存在だったのに、噛み合わなかったから仕方がない。
そんな相手と比較したらそりゃあ好きだろうという対比相手の九条比鷺だけれど、そっちの方が好きのは本当。鵺雲とは良い意味で全然似ていないし、面白くて読み切れないし、あとは才能がある。才能が全てではないけれど、同じ目線の高さで見ることが出来る相手というのは大事。それは鵺雲とは叶わなかったことでもある。そういう意味で、鵺雲が起点になっている関係ではある。比鷺自体も鵺雲という存在が自分から分かちがたいというか、比鷺の中の大きな部分を占めているものだから仕方ない。でも、ここから二人だけのものが積み重なっていく。
>さっき空気の読めない発言をして、なごやかな場をぶち壊したことを気にしているのだろう。
読み返したら遠流が皋に対して恐ろしく辛辣で驚いてしまった。でも、遠流からしたら三言に何があったのかもしらないくせに! という憤りがあるから仕方ないかと納得もいく。
腰の化身と舌の化身は同じくらい嫌だなと遠流は思っている。三言の手の甲は最高。比鷺のは普通。鵺雲のは最悪。肩甲骨を知ったら何……? となると思う。七生のは悲しい。去記のは怖い。あとはよくわからない。
「これをきっかけに私が人の物を盗んだりする大人になったらどうするんですか!」
昏見には何を言わせてもいいと思って調子づいている。
「簞食壺漿(Sound out Main-mast)(後編)」
開幕で渋い気持ちにされている昏見。もし皋が探偵を辞めてぬくぬく人間らしく、期間限定のアイスとかを楽しみにしているような普通の暮らしをしていたら、昏見も「え〜もう一度探偵やりましょうって」くらいの気持ちだったけれど、あの夢のような日々を捨てて送るのがこれ!? という憤り。
昏見は自信家なので、自分や萬燈夜帳と一緒に食事を摂っている時に少しだけ食事を楽しんでいる様子が垣間見えたら「このまま『大丈夫』にしてあげられるかもしれない」と思うのだけれど、皋の業は根深いし昏見は長期戦を強いられる。
三言と萬燈夜帳の味覚はかなり良い。人間離れしている。三言はこのレベルで料理の話をしてくれる人がいないから、こういう話が出来て楽しいと思う。入彦は一般的な人間の中で良い方。昏見の味覚も人間離れしているけれど、姉の出してくるあまりにも冒涜的でミラクルな組み合わせの料理に翻弄されたりする。
好感度を稼ぐことに失敗し続けている萬燈夜帳、比鷺の「褒められたい」でこれはいけるだろうと踏んで、目についた美点を褒める。これでもなんだか反応が芳しくないので「どういうことだ……」と思いかけるも、比鷺の発言で「なるほど、受け取る側のキャパシティの問題だったか」と認識を改める。ここから少し比鷺のことを理解する感じ。実際、褒めてほしいのに褒められると気まずい性質は比鷺の側に原因がある。比鷺のせいではない、比鷺に原因があること。でも、こうやってコミュニケーションを取ろうとしてくれなければ、連絡先の交換すら比鷺はしたがらなかっただろうから、萬燈夜帳の試みには意味があった。
昏見、珍しく本当のことを言っている。目指せ夢のメガワイン。
皋所縁は「線上の十三階段」などでも語られている通り寄付などで定期的に預金を減らしていたので懐事情がシビア。いや、少しくらい自分の為にお金使った方がいいだろ! と思っているので昏見の当たりも強い。
「堆金積玉(points card incident)」
舞奏曲集・壱の発売を受けての特典の話の回。櫛魂衆は「全力食堂のポイントカード」「くじょたんのネット絶ちカード」「舞奏社所属承認書」だっただろうか。特典を全部小説に入れ込もうとしていたのを思い出す。これらの特典はゆるしんのデザインなどを担当し、そのた神神化身の世界を彩るありとあらゆるものを作っていらしたSMILE*さんの作品。細かいところまでこだわって頂いて感謝しかありません。
入りはチャンドラーの『ロング・グッドバイ』の引用。ネットで有名な一節は引用出来る九条比鷺。この時はまだ小説も全然読んでいない。二部の書庫で萬燈先生の本を読むのが次だっただろうか。
あの『くじょたん』が覡なわけないだろ! はかなり根強い。九条比鷺はくじょたんの声が好きなくじょ担にとって、ある種結構理想の炎上しないくじょたん亜種である。
遠流はアイドルとして表に出ることもどんどん好きになってはいくものの、本当に元の性格をつきつめるならこういう手作りのものを丁寧に作るのが好きな職人肌。恐らく、ミニチュアのジオラマなどを作成するなどに物凄く向いている。集中して作って、疲れたら眠ってが一番いいペース。比鷺を鼓舞かつ煽る為のカード作りはアイドル活動の良い息抜きだった。
全力食堂は昼は全力食堂、夜はリストランテ浪磯の雰囲気でやっていくことを画策しているが、あまり区別化されていない。三言の試作料理・気まぐれ料理はリストランテで試験的に出されることが多いものの、原価などを度外視しているので大体が一度きり。ポイントカードは貯めるのがそこそこ大変そうではあるけれど、小平さんも三言も気分と勢いで押しがちなのでざくざく貯まる。
才能より努力を褒められたい、努力より才能で見初められたかった、の違いの比鷺と遠流が対比的。