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リゴッティ "DREAM OF A MANIKIN"。これもめちゃくちゃややこしい。語り手の分析医?のもとにある日Amy Locherという女性が訪ねてくる。彼女は普段ある金融ファームで融資業務担当者として働いているのだが、夜見る夢では服屋の店員になっており、そこでの彼女の仕事はディスプレイウィンドウのマネキンの服を着替えさせることである。彼女はその夢の中でさらに、彼女自身ではないマネキン衣装係が寝室で見た恐ろしい夢について三人称的に語る。その夢では、空間が不気味に変調し、マネキンだと思っていた人形たちは口を開かせられたまま生き続ける人間の姿へと変わってゆく。そして衣装係の口もまた閉じられなくなり、彼女自身もマネキンと分かち難い存在へと変貌していく。そして、彼女はその夢の中の夢からマネキン係としてではなく、現実の融資業務担当として目覚める。

この彼女が語る夢の性質は、語り手が二人称で語りかけるもう一人の人物が数年間探求してきた「別の諸世界」をめぐるオカルト的な知と奇妙に関連しあう。荘子なども引き合いに出しつつ、語り手はもう一人の人物が彼の元にAmyを送り込んできた可能性を疑っているようだ。Amyは二度目のセッションに現れず、語り手は彼女から受け取った番号に電話するが、別の女が出る。診療の予約をキャンセルし、彼女が残した住所に直接向かうと、そこにはAmyが夢に見たと語っていたものによく似た服屋があり、そのウィンドウには彼女と似た服を着せられたマネキンが佇んでいる。その後、語り手もまたマネキンたちの登場する夢を見て、そこでAmyを思わせる不気味な声を聞き目覚める。最終的に語り手は、そもそもAmyの存在自体が夢であった可能性を疑い始め、狂気の兆候を見せはじめる。

キャロルーアリス、父ー娘、作家ーその分身としての主人公Prestonの関係性が複雑に畳み込まれた前作に続き、本作もまた、語り手ーAmy、語り手ーあなた、Amy1(現実)ーAmy2(衣装係)、人間ーマネキンなどの複数の関係性がさまざまな境界をまたぎつつ浸食しあい、その絡み合いの中に「別の諸世界」をめぐるオカルティックな認識が顔を出す、過剰なまでに複雑な構成がとられている。リゴッティはラブクラフトだけではなくデヴィッド・リンチ関連のアンソロジーにも寄稿しているらしいのだが、たしかにここ二作は、あるいはラブクラフト以上にリンチ的、特に『ロスト・ハイウェイ』、『マルホランド・ドライブ』あたりの夢と分身のテーマ系と通じる部分があるかもしれない。そういえば『ワイルド・アット・ハート』も「アリス」オマージュの靴鳴らしから始まっていた。

ここまでの四作は、DREAMS FOR SLEEPWALKERSという連作としてまとめられている。眠りと夢に関する要素はたしかにある程度共通しているような気もするが、何か他に相互の連関があるのかなどは今のところ不明。只者ではない作家なのは明らかだが、一本目の印象は完全な誤解で、ポップさよりはとことんハードコアな方向に振ってくる作品が多いのかもしれない。