裏たびとこ話、終

tabitocco
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某ファストフード店の彼と、10年ぶりくらいに近況報告のLINEを何往復かやりとりしたあと、たしか彼が「実はもうすぐLINEできなくなるかもしれないんだけど」と切り出したときに、こちらからネットニュースを見た話を振った。「たまたま少し前に知ったよ、黙っててごめんね」と送ると、「知ってたのに避けたりしないんだね、ありがとう」と返ってきた。

翌週の裁判で、たぶん実刑が言い渡されて、そのまま2年半〜3年ほど刑務所だと思う、と。執行猶予はつかないの?と聞くと、実は逮捕が2回目だから、弁護士さんいわく、ほぼ実刑で決まりだと。

じゃあ手紙送るよ!あと刑務所って入ったことないから面会も行ってみたいかも!と不謹慎な返信をすると、じゃあ入る刑務所が決まったらこっちから手紙送るから住所教えてください(笑)とわりと明るい返事が返ってきた。

手紙のやりとりは月に一往復くらいの頻度で、彼が2年と少しで出所するまで続いた。まじめな模範囚で、刑期が短くなったらしい。友人など、家族以外の関係の人と定期的に手紙や面会などのやりとりがあることも、評価の対象になるそうで。へぇ〜。すごい世界だな。たしか、1か月のうちに出せる手紙の数にも上限があるって言ってた。それも、態度が良ければ少しずつ増えるらしい。

手紙では、そのときの近況報告に加えて、いろんな深い話もした。10年前に、お互いがお互いのことをどう思っていたのか。最後に会ったときから今までの間に、どんなことがあったか。わたしは彼のことを、罪を犯したあとでも根はとても素直で良い子だと思っているし、弟のような息子のような、なんだか他人とは思えないような感覚がしていて、それはなぜなのか。

彼とわたしは、たぶん中身がよく似ているのだ。自分に課すハードルが高くて、完璧主義で、しんどくても外に出さずに…というか出せずに、一人で耐えようとして陰で必死にがんばって…、限界がきたときに他人に向かってしまったのが彼で、鬱になったのがわたし。それだけの違いだと思う。

お互いおじいちゃんおばあちゃんになって、それでもまだ独身だったら結婚するのもありだね、なんてことも話していた。そういえば、わたしの体調とか、なかなかスケジュールに余裕がなくて都合がつかないとかで、彼も楽しみにしてくれてた面会には行けずじまいになってしまった。ちなみに、昨年の春に出所した彼にはいま趣味の合う彼女ができていて、幸せそうで何より。人生、悪いことばかりじゃないね!

2年と少しのやりとりの間に、わたしは大学院生になり、修士をおさめ、博士に進学した。院生になってからは、忙しいこともあり、上司Aとはほとんど会わなくなっていた。

なんだか住む世界が違ってきた感じがしていた。メールで話をしていても、よくすれ違うし、カチンと来ることが増えていた。修士のあと、博士に進もうと思っていることを話したとき、明らかに「それは仕事になるの?そろそろ現実を見なさいよ」の顔をしていた。いつまでも夢を見て遊んでる場合じゃないぞ、と。

そのくせ、わたしには会いたいと言ってくる。それって身体が目当てということでしょ?俺の言うことを聞け(俺のほうが社会人としての見識がある)、現実を見て就職しろ(この歳からアカデミアでの成功は無理だオマエにそんな才能はない)、身体を提供しろ。わたしにメリットが一つもないんですが。

わたしが決めたことなんだから、すごいね、がんばれ、って言ってほしかっただけなんだけど。博士に進んで、もし失敗したって、あなたのせいになんてしませんけど。もちろん、40から研究者に、なんて常識的に考えたらありえないだろうし、前例だってほぼないだろうし、簡単じゃないことは自分でもわかっているつもりだけど、でも「絶対に」無理だとは、わたしは思ってないわけで。なんなら、わたしが最初のペンギンになる勢いで何とかしてやろうと思っているわけで。

そういうことが、20代の頃から十数年もわたしを見てきたはずのあの人に伝わらなかったのが残念だった。わたしがずっと「普通の枠」には収まりきらずにここまできたこと、それを分かっていて、それを面白がって傍にいてくれているんだと思っていたけど、違ったみたい。結局、普通の枠に収まれ、なんて。つまらん!!!!!

ということで、長い話がそろそろ終えられそう。今は恋愛とかわりとどうでもよくて、そんなものに煩わされずに、ただ研究に集中したい。それが楽しい。ちゃんと博士号とって、研究者になって、「ほーらできたでしょ!」って言いに行きたい。

@tabitocco
書きたいことがある&時間があるときに、好きなことを書きます