『火車』読了。
Audibleで聴いたので読んではいないが読了とした。
当時32歳の宮部みゆきさんが執筆したことに驚いた。
「才能」という安易な言葉を使ってはいけないと思うが、なるべくして小説家になる人だったというしかない。
代表作『模倣犯』や宮部みゆきさんの名前は知っていたが読んだことはない。僕は小説に全く興味を示さない人間だったので、売れている小説であっても買って読んでみるということはなかった。
そんな僕が小説を読むようになったのはAudibleのおかげだ。
2ヶ月限定でAudibleに加入し、その最終日に読んだのがこの『火車』だった。
その前に読んだ自己啓発書が「オレすげーだろ、だからお前もがんばれ系」で、心の底からうんざりした。最後くらいはちゃんとした本を読みたいなと宮部さんに頼ったわけだが、宮部さんが綺麗に締めてくれた。
他のサブスクとの兼ね合いもあって、いったんサブスク契約は解除したが、またAudibleに加入して、宮部みゆきさんの小説を聞きたい。彼女の小説を聞くためだけに加入するのもありだと思う。
『火車』が読みやすかったのは、メインの舞台が東京の葛飾区周辺で金町や水元公園など、馴染みのある地名が多く出てきたからだ。実際に行ったことのある場所だと情景が想像しやすいし、その土地の空気がわかる。全くの無から想像するのとは全然違い、空想の負担が減ったことで明らかに物語に入っていきやすくなった。
さて肝心の物語の内容だが、休職中の刑事が、二人の女性を探すという人探しの話だ。悲しい女性たちの話なので、ずっと暗い展開が続く。いちおうミステリーというくくりだが、殺人などの生々しい描写はない。最後まで死体は登場しなかった。
ただひたすらに登場人物の人間性を描くことに終始していて、この人はどんな人なんだろうと興味をそそられる。個人的に気に入ったのは「みっちゃん」だ。今風に言うと天然おバカキャラ枠だと思うが、その天真爛漫さが数少ないセリフから伝わってくる。この悲しい話の中で、小さな笑いを生み出した「みっちゃん」の役割は大きい。おそらく宮部さんのお気に入りだろう。
タモっちゃんの嫁の郁美さんも素敵な女性だった。
失踪した幼馴染(女性)を真剣に探し続ける旦那を支え、励ます。もちろん嫉妬はあるはずなのだが、それでも自分を見失わず、やるべきことをやる。人柄の良い賢い女性だということが言葉の端々から滲み出ていて、宮部さんもこんな女性が好きなんだろうなと想像させられる。
結末はあっけなかった。
「え?こんな感じで終わるの?」
と最初は戸惑ったが、すでに謎は解かれているので、この終わり方でいいんだと納得した。余韻を残す終わり方もセンスがある。
人間の悲しさ、非情さに焦点を当てた作品だが、人の優しさ、暖かさが伝わってくる作品でもある。
「利子のつくローンでの購入は絶対しない」という自分との約束を破ってパソコンを買い替えた直後に読んだからこそ、この話の内容が身に沁みた。
暴力的な言葉が並ぶ「自己啓発書」が売られている一方で、
人間の内面を深く見つめさせる自己啓発もある。
宮部みゆきさんの凄さを実感し、手に取る本を選ぶことの大切さを学んだ。