広辞苑をころがしてあそぶノノちゃんは、
みじかいみつあみ。
おかあさんが、ぎゅーってして、
目がぎゅーってつりあがって、
みじかいみつあみ。
今日はお気に入りの赤いスカートが
にあっている。
かわいいねって言うと、
首をまげてニコってしてくれる。
ころがってドンっとなった
広辞苑がひらくページに、
今日もノノちゃんは付箋をはる。
くもりだから黄色。
ノノちゃんの二重が空を見上げる。
もういっかいころがす。
あしたは晴れだからピンク。
あさっては雪みたいだからオレンジ。
けけけと笑うノノちゃんの
おかあさんが、おにぎりをにぎってくれた。
中はタラコ。
おいしくてほっぺたが
落ちたから白色。
もうずっと小学校に
いってないノノちゃんを
おかあさんはやさしく見守る。
ノノがっこういかなくていいの?
いいの。おかあさんはノノちゃんに
ずっとおウチにいてほしいんだもの。
外は39°、逗子の潮風で錆びた
ベランダの物干し竿。
おとうさんが使っていた
きずだらけの広辞苑。
短い髪のノノちゃん。
長い髪のおかあさん。
海からラジオみたいに聞こえる
たのしそうな声。
そのどれもが、ノノちゃんと
おかあさんのお気に入り。
広辞苑をころがしてあそぶノノちゃんの、
おとなになったらの夢はお天気お姉さん。
ころがすのに夢中なノノちゃんを見て、
おかあさんはニコっとして腕まくり。
さっ、お掃除しなくちゃ。
訪問するたびに増える
キラキラないろんな色のページに、
わたしもがんばらなきゃと思う。
わたしにも家族がいる。
ノノちゃんが冷えた麦茶を
もってきてくれる。
ちょっとこぼれた。
えへへと笑うノノちゃんに、
すこしおとうさんの面影がのこる。