今月は家計が苦しい。いつも苦しいのだけど、今月はとくにお金に余裕がない。いつものように「肉のハナマサ」に寄る。手羽元が特価で、1.5キロが900円ほどで売っている。大根とにんじんをそれぞれ一つ、玉ねぎ二つを一緒に買う。
手羽元をぎゅうぎゅうに鍋に入れる。これはなかなかの迫力だ。大根を2cm大にいちょう切り、にんじんと玉ねぎをざっくり切って鍋に投入。大根とにんじんは皮を剥かない。にんにく2片と、少しの塩を加えて、アクを取りながら60分煮込む。これで完成だ。
軽くこしょうをひき、スープをすする。滋味あふれるやさしい味。冷えた体に染み入る。具材は鍋にあふれんばかりに詰まっている。5日間はもちそうだ。しかし、凝ったことをまったくしていないのに、このおいしさは一体なんなのだと思う。女友達におすそ分けしたら、「美味しかったですー!」との感想が届いた。お世辞だとしてもうれしいものである。
次の日、手羽元も大根もにんじんも箸が触った瞬間に身が崩れるほど煮え、味が染み込んでいる。これまたおいしい。まるで、食を極めた達人が作ったような食べ物に思えてくる。にんじんがこんなにもおいしいと感じる日がくるなんて思ってもみなかった。これも自炊のなせるわざなのだろう。
家庭料理はよほど時間のある人でなければ、かんたんに作れるものであるべきだと思う。有元葉子さんの料理番組を演出したときにも感じたことだ。洋食屋を経営していた祖母から伝わっているわが家の伝統料理に「ピリピリ焼き」がある。一番安い牛肉の切落しをささっと焼いて、たっぷりのこしょうをかけたしょうゆに浸して食べるというものだ。子供のころから食べているが、どんなに凝った高級な牛肉料理を口にしても、ぴりぴり焼きを食べると、やはりこれが一番おいしいと感じるのである。