世田谷区が主催する、野菜づくり講習会の初回に参加した。次大夫堀公園内の自然体験農園でおこなわれるこの会は、農作業体験を通じて土とふれ合い、都市農業への関心を深めること、また、技術を習得し、区内農家で“農業サポーター”として活動できる人材を育てることを目的としている。
講習会は毎週土曜日にあり、期間は一年。農業サポーターの資格を得るためには、7割以上参加する必要がある。昨年8月から自炊の道を歩み始め、みずから育てた野菜で料理を作ってみたいと思っていたわたしに、Xの世田谷区広報アカウントからの募集ポストはまさに渡りに船だった。
ワークマンで買った地下足袋と手袋を装着し、自転車を走らせ現場へとむかった。初日の講習は、農作業の基本であるクワの使い方から始まった。30代とおぼしき若手講師が手本をみせる。サクサクとした手さばきは、力を込めずにおこなわれているかのようだった。無駄のない動きが美しい。簡単そうじゃないかと思ったが、そんな甘いものではなかった。
まずクワを土に入れる角度がむずかしい。角度をつけすぎるとクワが土にささってしまい、うまく抜けない。かといって、平行に入れすぎると土をすくえない。なんとか土をすくえても、サッとクワを抜いて狙ったところに土を落とせない。わたしは試行錯誤をかさね、クワで土を耕す練習を何度も繰り返した。 講師にどこが駄目なのかを聞く。
何千年も前から人類の手に馴染んできたクワを、今日までいちども真剣に握ったことがなかったわたしは、土を耕す現実に直面し、その扱いのむずかしさに愕然とした。それと同時に文明が進歩した今でも使われ続けているクワという道具の完成度の高さに畏怖の念をおぼえた。すごいよ、鍬。漢字で書くとその存在感は圧倒的だ。
気を取り直し、ふたたびクワと対峙した。土を耕し続けた。うっすらとコツをつかむ感触が指先に伝わってくる。ギターでもボウリングでも、そして農作業でも同じだが、なにもできなかった状態から、ふと身体がわかる瞬間は、どのような身体運動であっても言葉にしがたい感覚におそわれる。しあわせのしっぽが垂れてくるというか。
休憩後、わたしたちは30人ほどでクワを使い、ふたつの畝(うね)を作り、肥料と石灰をまいたあと、最後に黒いマルチシートの端を土で固めて、初日の作業を終えた。来週はズッキーニと、サニーレタス・リーフレタスの種まきをするとのこと。帰宅後、わたしはズッキーニのレシピを料理本の中から探した。