1985年のクリスマスの話。

ぴよぴよホームズ
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公開:2023/11/30

さて、クリスマスだ。息子を授かってからというもの、クリスマスは楽しみな行事になった。しかし、今年12歳になる息子は、さすがにサンタの存在を疑うようになり、クリスマスはただおいしいショートケーキを食べる日、ぐらいの感じだ。

わたしが子どものころにもらったクリスマスプレゼントで忘れられないものがある。あれは9歳のときだった。わたしはサンタさんに野球のグローブをお願いした。

甲子園球場の近くに住んでいたわたしや友だちは、みんな野球に夢中だった。学校が終わると公園や空き地に集まり、ボールを投げたり打ったりしながら日が暮れるまで遊んでいた。

その年は、阪神タイガースが球団史上初めて日本一になった歴史的な年だった。サンタさんにグローブをもらったら、掛布のようにサードを守って、華麗に送球したいと思った。

朝、ぱっちりと目がさめて枕元を見ると、緑色の袋に赤いリボンがついた大きなプレゼントが置いてあった。ドキドキしながらリボンをほどき、箱をあけた。

キャッチャーミットが入っていた。

まだ寝ぼけているのだろうか。それとも夢を見ているのだろうか。わたしは茶色いそのモノを四方八方からながめてみた。さわってみた。手にはめてみた。

まごうことなきキャッチャーミットだ。

呆然とした。サンタを信じていたわたしは、母親に文句をいうこともできなかった。それどころか、サンタに取りかえてくれとクレームを入れる方法など知るはずもなかった。掛布になる夢は断たれた。

次の日からわたしは誰もやりたがらないキャッチャーにされた。当然のことだ。キャッチャーミットを持っているのは自分だけだったからだ。そして、友だちが投げる球を淡々と受ける日々が始まった。

@tai
上村朔之介(うえむら さくのすけ)…1975年生まれ。兵庫県芦屋市出身。日本大学芸術学部中退。映像ディレクター、小鳥ものづくり集団「pico」、専業主夫などを経て、「ぴよぴよホームズ」を設立。小鳥物件の譲渡のほか、ぴよぴよレコード、ぴよぴよ喫茶店、ぴよぴよ洋服店などの事業を展開中。インコ歌人、詰将棋作家、ボウラーとしても活動中。X→ @taikichiro