1985年のクリスマスの話。

上村朔之助
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さて、クリスマスだ。息子を授かってからというもの、クリスマスは楽しみな行事になった。しかし、今年12歳になる息子は、さすがにサンタの存在を疑うようになり、クリスマスはただおいしいショートケーキを食べる日、ぐらいの感じだ。

私が子どものころにもらったクリスマスプレゼントで忘れられないものがある。あれは9歳のときだった。私はサンタさんに野球のグローブをお願いした。

甲子園球場の近くに住んでいた私や友達は、みんな野球に夢中だった。学校が終わると公園や空き地に集まり、ボールを投げたり打ったりしながら日が暮れるまで遊んでいた。

その年は、阪神タイガースが球団史上初めて日本一になった歴史的な年だった。サンタさんにグローブをもらったら、掛布のようにサードを守って、華麗に送球したいと思った。

朝、ぱっちりと目がさめて枕元を見ると、緑色の袋に赤いリボンがついた大きなプレゼントが置いてあった。ドキドキしながらリボンをほどき、箱をあけた。

キャッチャーミットが入っていた。

まだ寝ぼけているのだろうか。それとも夢を見ているのだろうか。私は茶色いそのモノを四方八方から眺めてみた。触ってみた。手にはめてみた。

まごうことなきキャッチャーミットだ。

呆然とした。サンタを信じていた私は、母親に文句を言うこともできなかった。それどころか、サンタに取り替えてくれとクレームを入れる方法など知るはずもなかった。掛布になる夢は断たれた。

次の日から私は誰もやりたがらないキャッチャーにされた。当然のことだ。キャッチャーミットを持っているのは私だけだったからだ。そして、友達が投げる球を淡々と受ける日々が始まった。

@tai
1975年生。兵庫県芦屋市出身。10代を神奈川県葉山町で過ごす。県立横浜緑ヶ丘高校、日本大学藝術学部除籍。映像ディレクターを経て、現在は、成城の有閑マダムと茶飲み話をするだけの簡単なお仕事をしています。XにてAI生成画像を素材に「机上の紳士淑女録」を更新中。 @taikichiro