子育て中の親にシェアしたい話。

上村朔之助
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10年前。私は、まだ言葉のない息子の子育てに、楽しさを感じながら、ストレスも多い日々だった。

ある日の午後、私は息子をベビーカーに乗せて散歩に出かけた。道端には桜の花びらが残っていた。買い物に行ったり児童館で遊ばせたあと家に帰った。玄関に着くと私はベビーカーから息子を抱き上げて部屋に入ろうとした。その時、足元に何かが触れたのを感じた。

おそるおそる見下ろすと、そこにはふやけた使用済みの紙おむつがあった。ベビーカーから落としてしまったらしい。私は拾おうとしたがその瞬間、紙おむつがパンッと破裂した。誤って足で踏みつけてしまったのだ。中から粘り気のあるジェル状の物質が飛び出し靴やズボンに付着した。

初めての経験だった。私はおどろきと嫌悪感で小さく悲鳴を上げた。息子も私の反応にびっくりして泣き出した。足元にへばりつくジェル状の物質は不快でたまらなかった。あわててジェルを拭き取ろうとしたが、それは水分を吸収して膨張する性質を持っていたらしく、どうしても落ちない。

靴下を脱ぎ捨てて部屋に入った。息子をベッドに寝かせてから自分の足を洗おうとした。しかし、ジェルは水に溶けないばかりか、さらに水分を吸収してふくらんでいる。困惑した。私は無知だった。紙おむつの中に入っているジェルが何でできているのか知らなかった。

あわててスマホで調べた。ジェルは「ポリアクリレート」という合成樹脂でできていることが分かった。ポリアクリレートは水分を500倍以上も吸収でき、紙おむつの吸収性や通気性を高めるために使われているという。科学的に見れば画期的な発明らしい。しかし、私にとってはそれは災厄以外のなにものでもなかった。

私はジェルを落とす方法を探したが見つからなかった。ジェルが乾くまで待つしかなかった。あたふたしている私に対して、飼っているインコの視線も冷ややかなものに感じた。

あの日から10年。息子は立派に成長し、紙おむつとは無縁の生活を送っている。私は今でもあの日の出来事を思い出すことがある。紙おむつが破裂すると厄介だ。それは私にとって、とても貴重な教訓である。子育てをしているすべての親たちにシェアしたいと思う。あと、ベビーカーは灯油を運ぶのに便利であることも。

@tai
1975年生まれ。兵庫県芦屋市出身。10代を神奈川県葉山町で過ごす。県立横浜緑ケ丘高校卒業、日本大学芸術学部放送学科中退。映像ディレクターなどを経て、現在は成城の有閑マダムと茶飲み話をするだけの簡単なお仕事をしています。Xにて、ぴよぴよホームズ代表取締役社長として活動中。 @taikichiro