探偵

takato
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 私が何者かって? 探偵だよ。

 

 いや、私は殺人事件を調べたりはしない。密室の謎も解かないし、アリバイ崩しもしない。現実の探偵は、素行調査や浮気調査が主な仕事なんだ。シャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロのような探偵はいない。

 

 ホームズやポアロというのは小説の中の、架空の探偵だよ。君、ミステリは読まない?

 

 ああ、本自体を読まないのか。最近の若者は本以外にも娯楽がたくさんあるものな。

 

 いいや、君の年齢は聞いてないよ。でも二十代だろうって見当はつく。まず服装の趣味が若いし、話し方も若い。他には身体つきや動作も判断材料になるけど、一番は手だね。手には年齢が出やすい。君の手は若者の手だ。

 

 なんだか小説の中の探偵のようなことを言ってしまったけど、私が得意なのは失せ物探しだ。だから君のために私が雇われたんだよ。

 

 大丈夫、君が依頼料を払えないのは分かってる。心配しなくていい。正式な依頼主は役所だし、依頼料もそちらからもらえる。

 

 表情がわからないって意外と困るね。でもその沈黙は、役所が君のためにそこまでするのが不思議ってことかな。

 

 やっぱりそうか。でもそれは、君がそのままじゃ地域住民が不安になるからだよ。今どきはこういう問題も役所が対処するんだ。時代だね。

  

 じゃ、納得してもらえたところで、そろそろ君の失くしたものを探しに行こうか。

 

 うん、こちらこそよろしく。本当に、君が地縛霊じゃなくてよかった。私も幽霊の頭部を見つけるなんて依頼は初めてだから、本人と一緒に探せて助かるよ。

 

 

(本作は、ぬまざきさん(ノベルスキーID:@orkedmo)にお題「探偵」を提案していただきました。素敵なお題をありがとうございました)