『#読書の背景』の背景。

本の感想と同じくらい、その人がどんなふうに読んでいるのかが気になる。朝に読むのか夜に読むのか。電車で読むのかカフェで読むのか。一冊をひと息に読むのか、何冊も並行して読むのか。いつも素敵な本を読んでいるあの方は、どこでどんなふうに読んでいるんだろう。

きっとそれぞれのスタイルがあって、いくつものTIPSがある。こだわりと妥協と理想との間で揺れ動きながら、それでも今日も本を読む人。一体どうやって読んでいるのですか?と聞きたくなるくらい、とても楽しそうに早く多く読む人。もしくは最近は読めていないけれど、それでもどうしようもなく読書が好きな人。全ての人に本を読むときの背景を聞いてみたいとずっと思っていた。

試しにBlueskyでハッシュタグ、「#読書の背景」で募ってみたところ、じわじわと読書家の方に広がって、一夜明けたらとても読み応えのあるハッシュタグに育っていた。これが本当に面白い。多くの人が箇条書きではなく、文章として書いてくださり、そこに生活の断片や個々の価値観が滲んでいる。まだ一言も交流したことがなくても、ごく近しい気持ちになったり、目を回すようなタフな読み方に感嘆したり。こんなことをずっと聞いてみたかった!と嬉しくなった。

水を飲むように読むのだろうと思っていた人が、自分と同じように集中出来ないことに悩んでいてこっそりと親近感を覚えたり、どこか素敵なカフェで読むのかなと思っていた方が、自宅ではないと読めなかったりする。予想通りでもそうでなくても、少しだけ垣間見える折り畳まれた時間に心が踊る。何度もレビューを見て来た方の読書の時間がぐっと立体的になる。

私はめっぽう読めなくなって、悪戦苦闘している一人だ。ふわふわと心がそよいで、気がつくとスマホゲームを全自動で立ち上げてしまったり、SNSの悪しき「おすすめ」タブに捕まっていたりする。それでもやっぱり読書が好きで、詰んでいる本はたっぷりあって、世の中には読みたいものが多すぎて、身動きが取れなくなっていた。

最近はオーディブルで聴くことを覚えて、これが失われた読書が形を変えて手元に戻って来た気がして楽しい。作業中も、料理中も、読書の時間になる。初夏に『プロジェクト・ヘイルメアリー』を夢中になって聴いた。海外ミステリーを聴きながら進める掃除の楽しさも覚えた。とはいえ、紙の本を繰ることも諦めきれないので、エッセイを一遍、短編をひとつずつ、隙間時間から始めてみよう。どうしても読めないときには「読書の背景」を眺めに行く。

たくさんの人があらゆる時間に本を読んでいる。その気配を遠く近く感じるだけでもきっと本を読みたくなってくる。気が向いたらあなたの読書の背景を教えてほしい。