リズム天国と大学生活最後の夏

takaichi
·
公開:2024/8/4

その頃、私は内定先のゲーム会社でアルバイトを始めていた。

大学時代、様々なバイトを経験したが、「絵やアイデアをつくってお金をもらえる生活」がスタートした高揚感と充実感は今でも忘れられない。酔っ払いも野生生物も出現しないことに加え、何より今まで経験したことがないくらい時給が良かった。

人生最初の仕事はクビになり、2回目のチャンスで掴んだ先斗町での寿司屋のバイトは、夜の世界の入り口付近のような場所で、そこで働く人々に様々なことを教えてもらった。

交通費も出たが、当時の時給は850円。叡山電車の運賃は高く、家族や友人が来た時しか乗れない特別な乗り物だった。色々な方法を試した結果、最終的に「先斗町バイク駐車場」まで岩倉から自転車で通う生活を送っていた。

夕方17時前にはバイクや自転車の列ができ、ここでの挨拶は何時でも「おはようございます」だ。

その果てに、気がつくと叡電に乗ってもいい生活が始まっていた。(会社に聞いたところ必ず公共交通機関で通うようにと強めに言われた。当たり前である。)

その夏、大学生活最後の夏。アルバイト代で新作ゲームソフトを買った。『リズム天国』である。

ゲームを作って(というには憚るくらい見習い作業だったが…)得たお金で買うソフトとしては2本目だった。1本目は当時制作していたタイトルのシリーズ作品を勉強用に購入したので、新作を手にしたのはこれが初めてだった。

バイト帰り、叡電の出町柳駅で発車待ちの時間、暮れゆく景色の中、ソフトを起動したとき、イヤホンから音楽が流れ始めたとき、自分の人生がスタートした音がして、思わず顔を上げて周囲を見渡した。この景色を覚えておこうと思った。

『リズム天国』を遊び倒した。出町柳駅で毎日起動した。今でも目を閉じて、曲を頭の中でかければ、自然とボタンを押す手が動く。ゲーム業界の入り口に立って、最後に純粋に遊んだ作品でもあったと思う。

つらいことがあったときは、頭の中に「ナイトウォーク」を流す。

ビリビリウオに、当たらないでネ!

夏が来るたびに思い出す。いまだに、ゲーム制作と出町柳駅はわりと近いところに居続けている。

@takkaichi
春の海 ひねもす のたりのたりかな