友人と一緒に劇を見ました。
とても楽しみにしていた劇です。
友人が大好きな劇団の作品で、彼女が東阪とチケットを取るのの大阪の部にお供させてもらって(もちろんチケット代は払ってます)、今回で三作目の観賞となる邦ミュージカルでした。
以下、物語中盤までのあらすじです。(公式サイトのあらすじを参考に内容を追記しました)
東京のどこかにある、今ではちょっとさびれてしまった商店街が舞台のお話です。昔気質で不器用なラーメン屋の主人とその息子は折り合いが悪く喧嘩ばかりしています。互いに独特なファッションセンスを持ち、時々対立するも祖母と孫が仲良く営む服屋では孫が抱くお巡りさん(巡査)への恋心を商店街中の人々が応援します。果物屋では果物(特にみかん🍊)への思い入れが強い娘が時々みかんを粗末にする人に対して大暴れしますが、愛情深い父親と商店街の人々がフォローしながら上手くやっています。そんな少し古めかしい、人情味溢れる商店街ですが、すぐ近くにデパートの建設が決まり、立ち退きを強制されてしまいます。最初は抵抗する商店街の人々でしたが、商店街よりもっとオシャレな所で開店したい野望を持つ美容師や、度々現れては商店街の治安を乱していたヤクザの二人組を筆頭にデパートを支持するメンバーが増えていき、とうとう商店街に居場所が無いラーメン屋の息子やファッションセンスで対立しがちだった服屋の孫までデパートを支持する側にまわり、商店街はいよいよ廃れてしまいます。
割とよくありそうな「古き良き下町を生きる者たちvsお金のためなら何でもする悪徳組織」モノで、難しい話ではありません。ダンス──いわゆるノンバーバルダンスの演出が売りの劇団で、新しくできたデパートへ巡査が様子を見に行くと、そこでは金の亡者のようになった元商店街の人々が顔に「¥」マークのお面をつけて操り人形のようなダンスを踊りながら働いていた──という「お金のために心も身体も乗っ取られてしまった人々」の様子とその恐ろしさなどをわかりやすく表現できるテクニックが素晴らしい劇団です。
ダンスのみならずお話もキャッチーながらおもしろいので、私もこの劇団の作品を三つも続けて見るまでに至ってます。本作品は、2018年に上演したものの再上演だそうです。
ですが今回、私はこの演劇が始まってすぐに頭が真っ白になりました。
それは、前説のキャラクターとして「明らかにとある人物をイメージした"ミタニユリコ"という名の都知事候補」が現れたからでした。
このキャラクターは公式サイトの紹介では"ミタニ"とのみ紹介されています。なので私も以下、"ミタニ"とここで書くことにします。
ミタニは今回の作品にこのように絡みます。舞台となる商店街と同じ地域で生まれ育ったミタニは、元総理大臣でもあった政治家を父に持つ二世議員として期待をかけられ、地元の選挙地盤を引き継いだまま都政へと立候補します。しかし都知事選でミタニの後を追う"右丸"候補との差別化を図る必要に迫られ、デパートを経営する悪者"セブン姉妹"のバックアップを得ると共に都知事に就任し、その対価としてデパートの建設を推進、実行したのです。
作品のあらすじを、そしてミタニのストーリーを書いて、私はこのキャラクターは作品に必要なかったと改めて思いました。公式サイトのあらすじにもミタニの記載は一切ありません。最初の方で書いたような商店街の概要があるのみです。デパートの建設が決まるのに首長を出さなくても表現の余地はあったし、選挙中である必要もありません。更に言えば東京でも、ましてや特定の実在する人物をパロったキャラじゃなくても物語は成立します。
それでも"ミタニ"というキャラクターを作り上げたのは、単に「リアル」で「おもしろい」からでしょう。
この劇団は、他にも実在する芸能人をイメージしたパロディキャラクターを作ることがありました。今回悪役となる"セブン姉妹"のビジュアルも叶姉妹と矢島美容室を掛け合わせたものになっており、知ってる人が見るとなんとなくわかるようになっています。前作でもバチェラーを彷彿とさせるストーリーに冨永愛や大門未知子を連想するキャラクターを登場させ、場を賑わせました。私もその時は「そういうもの」だと思って笑いました(冨永愛も大門未知子もバチェラーに参加するような人物だとは到底思いませんが)。
大学の卒業証書をポケットに忍ばせ、さびれた商店街で木箱に乗って選挙演説をするミタニは前説で「この古き良きまちと人々を守りたい。その為に清き一票を、清き一票をお願いします!」と繰り返します。観客一人一人に「どこからいらしたのですか?」とファンサをし、東京と返ってくれば「清き一票をお願いします!」と挨拶する、都民ファーストを歌詞に盛り込んだ歌を歌いながら、最後は「SNSにアップするので拡散してくださいね!」と言って観客を一人指名し、ミタニのスマホで戯けた宣伝動画を撮らせます(動画は劇の演出として使われるだけで実際のSNSでは公開されていません)。ミタニというキャラクターがボケるごとに観客が笑い、拍手をします。私は、笑えませんでしたが。
正直、現都知事ないしとある政党からお金でももらってるのかと思いました。ミタニが前説で商店街と地元の良さを語り、「都知事候補 ミタニユリコ」と書いたタスキをかけて清き一票を求めるたびにこのキャラクターの登場が前説だけであってくれと祈りました。前説が終わり、商店街の人々と共に(まるでその地域の人々の一員であるかのように)登場し、踊るミタニを見ながら、私が今回別の候補者が当選することを願いながら見守っていた選挙期間を、そしてその候補者が落選したことで自分たちがフィルターバブルの中にいたという事実を突きつけられたこと、現都知事に投票した人の中に「お金くれるも〜ん!」というコメントがあったこと、神宮外苑の再開発は誰かに唆されているわけでなく都知事が率先して行っていることや、映画や漫画アニメで性的マイノリティや有色人種を出せばポリコレと叩かれるのに男女の恋愛規範描写やホワイトウォッシュは当たり前のように受け入れられること、この劇が終わった後すでに二回もこの劇を見ている(そして良かったと言っている)友人になんて言おうなどがぐるぐる頭を駆け巡りました。
最初の方で書いた通り、この作品は2018年に上映したものの再上演です。小池百合子知事は2016年に初当選を迎え、2018年には都知事候補ではなくて都知事でした。しかし私はその事実を一連の劇を見終わった後に知りました。再上演を行う今年2024年、大阪の上演期間は7/12~15、東京では6/21~7/7の間に本作は上演されました。東京都知事選の真っ只中です。
2018年、小池百合子知事は初の女性都知事としての就任期でした。私は2015年度に新卒で東京勤務になり、選挙も参加しましたが恥ずかしながら当時の都知事の様子について詳しく覚えていません。今よりは新鮮なイメージだったことは否定できないでしょう。しかし、都知事として二度目の当選を果たし、三度目の就任を見据えて立候補した2024年の彼女は、2018年のイメージとは大きくかけ離れたはずです。彼女は木箱の上に乗って街頭演説をする必要はなく(当時だってそんなことはしてないと思いますが)、それどころか公務を優先して街頭演説を控える、現職の強みをアピールする作戦をとっていました。そんな彼女をイメージしたキャラクターを、6年前と変わらず登場させる必要があったでしょうか。6年前と変わらず登場させることの現実とのギャップを、考慮しなかったのでしょうか。
もちろん、現実とフィクションは違うものです。そもそも小池百合子知事はミタニと違って東京都の生まれ育ちではなく、そのためミタニが抱えるような地元愛を持った人物でないことは間違いないでしょう。都知事は物語でミタニがそうしたように地盤を引き継いだ特定の選挙区域でのみの演説したり、海外からやってきたセレブの後ろ盾を得る程度で当選するような役職ではありません。いちいち現知事とミタニというキャラクター(物語の中で扱われている都知事のポジション)の違いを重箱の隅を突くように論うのは、現実と創作の区別がついていないと言われるかもしれません。しかし、舞台ではミタニが緑のスーツで都知事候補のタスキをかけた姿で都民ファーストの歌を歌い、大学の卒業証書があることをネタにし、都民の観客に「清き一票を!」と語りかけます。SNSでは実際に「都知事選がある今だから見て欲しい」「都知事選の当日に千秋楽を迎えるなんて」「投票用紙に"みたにゆりこ"と書きそうで怖い」という投稿を少なくも見つけることができます。「現実と創作の区別がついていない」のは、私だけでしょうか?
私は、数年前に東京から関西に引っ越してきて都民ではなくなりました。都民でもないのに、都知事選について気にかけて、当選しなかった別の候補者が当選することを願っていました。そんな都知事選が終わった後のこの劇は、現知事の当確はこんなにも大衆に受け入れられているのだと言われているようでした。他の候補者なんて歯牙にもかかっていない、そしてその事実を見ている観客もなんとも思わない、むしろ面白おかしく受け入れられることなのだと、思い知りました。都知事選の結果について引きずっていた私は、ずっと楽しみにしていたこの劇を見て気分を切り替えようと思っていたのに、その劇によってまたひどく打ちのめされたのでした。
途中、セブン姉妹に唆されたミタニが「¥」マークのお面をつけてデパートの従業員(?)になり始めたあたりから、さびれた商店街のシーンが中心となって少し物語に集中できるようになりました。そして後半の展開も、破天荒でありましたが楽しむことができました。思い返せば都知事が就任後に何やってんですかね。
見終わった後、友人に感想を伝えるのにすごく苦労しました。私は嘘をつくのが下手です。迷った末「おもしろかったけど、"ゆりこ"色が強かった。都民にとってはあれが当たり前だったの?」と聞きました。友人からの返答は「都民じゃない人からしたらわけわからんかったかもしれないけど、東京では都知事選の時期にこれが上演されて、石丸さんとどっちになるかという話もあって、タイムリーでおもしろかったんだよ」でした。
私は思い切って「都知事選は私も興味があって見ていた。三位になった人を推していた。ゆりこ以外の人が都知事になれば良いと思っていたから、みんなにとってこんなに彼女の当選が当たり前だったんだと思った(カルチャーショックだった)」と正直に伝えました。
本当は、「三位になった人」でなく「蓮舫さん」とバイネームで友人に伝えたかったです。でもその時、私は友人の反応が怖くて名前を言うことさえはばかってしまいました。言い訳をすると、名前を伝えるのが怖かったのはこの友人とは別の知人に、私が蓮舫さんを推していると言った時の反応に傷付いた経緯があったからなのですが、言えなかったことは今でも情けなくて、悔しいです。
会話は歩きながらのもので、返答を求めたものではありませんでした。彼女は「そっか〜」と言うとそれ以上追求はせず、私は自分をずるく思いながら「でもお話は面白かった」とだけ付け加えて歩き続けました。短い沈黙の後、私たちはいつも通り他愛もない話を続けてその後を過ごしたのでした。
私は、私に今回の劇を誘ってくれた、そして見た結果「良い」と評価した友人を問い詰めたかったわけではありません。私はこの劇団の劇を始めて見た時、そのおもしろさとダンスの素晴らしさに思わずリピーターチケットを買い、計二回観賞しました。演出の特性上配信や円盤化が不可能と聞いて「これからの演目も一緒に見に行きたい」と言ったのは私の方です。そして今度も新しく劇をするなら、見に行きたいです。…不安は、ありますが。
実は、私はこの劇もこの連休で計二回、観賞しました。今回は一回目を見た後にニ回目を決めたわけではなく、同じストーリーとキャラクターで、キャストの半数を入れ替えた二種類の配役で上演を行うという情報を事前に聞いて、どちらのタイプも見たいと思って二回分のチケットを買ったのでした。それくらい、友人も私も今回の作品を楽しみに(友人は計四回の観賞なので私以上に)していたのです。その夜の心境については今は省略します。
二回目は、一回目ほどの衝撃はなく、比較的落ち着いて、物語と演出に集中して作品を見ることができました。そのおかげで、そもそも楽しみにしていたダンスや、一回目に入ってこなかったキャラクターの細かい動き、キャストを入れ替えたことによる演出の違いなどを楽しむこともできました。最初に述べた「¥」マークのお面を使ったダンスだけでなく、服屋の特売セールの様子をエレクトロポップな音楽とダンスで表現したり、廃れた商店街に残されたメンバーがコンテンポラリーダンスと共に悲しみを表現するシーン、商店街に残るメンツとデパート経営に取り込まれてしまったメンツとのダンスバトルなどを見て胸を躍らせることができました。二回目の観賞の後、友人と気に入った点について感想を共有することもできました。結果的に、私は二回この劇を見ることにして良かったと思っています。
しかし、二回見て良かったと思うのは結果論でしかありません。私は、"ミタニ"というキャラクターがこの作品で使われていたことが残念でなりません。もし私が一回分しかこの作品のチケットを買っていなかったら、私はこの作品に、この劇団に失望して観賞を終えることになりました。二回分買っていても、友人とではなく一人で見に行くことにしていたら、私がより強く作品に失望し、友人との約束を反故にしても見に行かない選択をしていたら、私はこの作品を少しも楽しめずに終わっていました。そもそもファンでない限り観客は同じ作品を一回しか見ないものです。一回見ただけで作品の良さが伝わらない(楽しむどころではなくなる)演出は、果たして本当に盛り込むべき演出だったのでしょうか。
映画の感想で、私はよくあらすじを読まずに映画を見ることがあると言います。今回も、あらすじを読まずに、もしくは読んでもすぐ忘れて劇を見ました。それは、私が作品について何も知らない無知な状態で物語を楽しみたいという欲があるからでした。SNSで情報を集め、年に数十本見続けている私は映画についてそれでも多少のトリガーワーニングや自分の好みをちょうどよく嗅ぎつけることができています。今後、私はこの劇団の作品について、事前に調べて見る/見ないを選別する必要があると感じました。なのでもしかすると、調べた上で友人の誘いを断ることになるかもしれません。その可能性を考えるだけで、すごく残念です。
それに、作品の良さはともかく、この作品を6年前と変わらず上演することを決めた劇団や、劇の内容をなんのわだかまりもなく楽しむ観客を見て受けたショックは変わりありません。ミタニのトークは(当然ですが)一回目の観賞と同様、二回目の観賞時にも観客にあたたかく受け入れられていました。
一回目の公演を見た私はその日の夜、明日のことを考えながら、私が都知事選候補として推していた蓮舫さんのインスタライブを見ました。そして彼女の最初の言葉を聞いて少し涙し、元気を取り戻すことができました。
「(今回の選挙は)達成感があったんだよね。確実に演説を通じて繋がってる人たちがいるってのもわかったし、言葉も届いてたし、それに対してそれを切実してたって答えもあって、政治ってやっぱり双方向なんだってことをすごく感じて、楽しい選挙でした。」
(SNSやテレビでの誹謗中傷に抗議の声を上げることに関する息子さんとの会話)
「これで今20歳とか30歳40歳これから政治に関わりたいって女性が、女性だから叩かれるんだとか思われるのはすごく嫌だな(と思った)」
「イラっとする。それを作っちゃった要因が私ってなるのもやだし」
「あっ、そうねそれは当事者だったらやだね」
私は、やはりこの方を推していて良かったと、これからも彼女がどんな形で社会に関わるにしろ応援したいと思いました。蓮舫さんと私の境遇は(それは勿論)全く異なりますが、私が今までフェミニズムや社会に興味を持ってから、声を上げ続けたことは間違ってなかったんだと思えました。そして私や他の差別に反対する人々と同じように、声を出して、他者の声を聞こうとした候補者が彼女だったのだと実感することができました。
この日記を書いたのには理由があります。私が見た劇は、東阪名で上演され7/28に千秋楽を迎えます。その後、私は公演アンケートに正直な感想を伝えるつもりでいます。その為の気持ちの整理として、この文章を書きました。私は、楽しみで見た作品を罵詈雑言罵りたいわけでも、拡散させて炎上させたいわけでも、残りの公演を中止に追い込みたいわけでもありません(だからタイトルや劇団名については伏せました)。上の段落で書いたような残念な気持ちを、私が今後同じ思いをしない為に、(もしかしたらそんな人いないかもしれないけれど)私以外に同じような思いをする人を今後出さない為に、そして私が二回も見たいと思った素敵な劇団の上演を、変わらず全力で応援できる為に、こんなに素晴らしい素敵な劇団があるのだとより多くの人に自慢できる為に、声に出して劇団に伝えたいと思って、この文章を書きました。
たとえその言葉が届かなくても、何も変わらなくても、私が声を上げたという事実を残したいから。