彼を初めて知った作品は『黒子のバスケ』だった。
SLAM DUNKとはいわば対極な、異能バトルをバスケに落とし込んだような漫画(作者の藤巻先生曰く、ジョーダンやアイバーソンなどのスーパープレイヤー達がギリギリ引き起こせるレベルの奇跡を描いていたという、が、赤司くんあたりからはギリギリアウトかもしれない)であり、要約すれば「今彼の小野友樹とタッグを組んで、元彼の諏訪部を殴りにいこう!」から全てが始まる物語である。その中で彼が声をあてていたのは、元彼である諏訪部を慕って甲斐甲斐しくキャラ弁を作ってくる、かわいい系(に、見せかけてひと癖ある)男子キャラだった。黒バスのライブイベントで初めて彼を見た時は、これまた王道なアイドル系を連れてきたもんだなあ、と思ったのを覚えている。あまりに王道系すぎて顔はともかく声はあまり記憶に残らず、後にFreeの主役として名前を見たときには驚いたものだ。
しかし今思えば、驚くのはまだまだまだまだ早かった。そこからも通る道にはどこかしらに名前を拝見していたはずだが、FGOをプレイするようになってから島崎信長のイメージがガラリと変わった。ガチャを天井まで回し尽くすのは当たり前、イベントではコスプレ衣装に嬉々として身を包み、早口前屈みでキャラ愛を語り、しまいには「話すと長すぎる」という理由で一部のコーナーで殿堂入りという名の出禁を食らい……ようするに「ただの俺達の代表」「出落ちコスプレおじさん」としか見ることが出来なくなった。
そういった経緯があったので、令和のアンジェリークこと『アンジェリークルミナライズ』をプレイしたときは真っ先に、島崎信長が声を担当している、鋼の守護聖ゼノを攻略しにかかった。何故なら、絶対に落ちる心配がなかったからである。どんなシナリオが待っていようと、声帯はあのオタクのお兄さんだ。絶対大丈夫。サクッとクリアして、全員のルートを回りきろう。
そう思っていたら、盛大に足元を掬われた。中の人の影なんてものが、一切見えなかった。一応、ネタバレ回避のための言い回しをするならば、いろいろなものが爆発した。いろいろなものが。生身の19歳の可愛さと格好良さと人間くささと切なさと絶望と希望が、滲み出る欲が、どうしようもないいじらしさと美しさ、全部叩きつけられてしまった。なんだこれ。こんな憑依系の役者だっただなんて、全く知らなかったぞ。
いや、思い返せば予兆はあったのかもしれない。FGOの朗読イベントではまるでその魂を神々に侵食され尽くされつつある英霊そのものがそこに実在しているようだったし、『鉄血のオルフェンズ』のイオク・クジャンは絶妙に厭な人間だった。ある程度の大きさの企業になら一人はいそうで、でも絶対に上司にも同僚にも部下にもなってほしくない、身内にいたら情で面倒見てしまいそうだが関わったら終わる、そういう面がビシバシと伝わってきた。あの人間臭さが乗りに乗った演技で、よりイオクに「この野郎!」と叫ばされていた。今にして思えば、掌の上で転がされていたのだろう。
こうして島崎信長のイメージは、ツイステッドワンダーランドの七章、呪術廻戦、ダークギャザリングと、作品を追えば追うほどドッタンバッタンひっくり返され続けている。
結局何が言いたいかというと、この声優、人間を抉らせることにかけて間違いなく信頼出来る。その上きっと、この先もまだまだ自在に化けるぞ、ということである。
楽しみです、本当に。