東の果てのある国に、ひとりの会社員が住んでいた。
会社員の勤務先の給湯室には、オフィスグリコが備えられていた。オフィスグリコは、小さな引き出しの中にさまざまな菓子がめいっぱい詰め込まれている夢の小箱だ。会社員は仕事中、小腹が空いたときにそれを利用するのを楽しみにしていた。
だが、素敵な日々は長くは続かなかった。初めは引き出しいっぱいに溢れんばかりだった菓子も、日を追うにつれ数が減り、やがて枯渇した。
「ない・・・」
16時過ぎの給湯室。会社員は空になったプラスチックの引き出しを開いてはまた閉じ、虚しくため息をついた。
どうか早く、早く補充を。願わくばじゃがりこで、この引き出しを埋め尽くしてほしい。心地よい歯応え、じゃがいもの旨み。油のついた指をウェットティッシュで拭う、その瞬間さえ懐かしい。ああ、じゃがりこが食べたい。会社員は切望した。
ある日、とうとうオフィスグリコの補充スタッフが会社を訪れた。
失礼します、と言って給湯室に入っていくユニフォームの背中を見送りながら、会社員は高揚した。あの扉の向こうで引き出しが今、満たされていく。じゃがりこはたくさん入るだろうか。何味が入荷しただろうか。そう思うだけで、キーボードを叩く指も弾んだ。
仕事に区切りがつくと、会社員は軽やかな足取りで給湯室へと向かった。上から順に引き出しを開け、その中を覗く。えびせん、クッキー、エビおかき…。最後の引き出しには、またえびせんが入っていた。じゃがりこの姿はどこにもなかった。じゃがりこの代わりに、オフィスグリコの引き出しではエビ祭りが繰り広げられていた。
エビが苦手な会社員は嘆き、悲しみ、涙にくれた。その涙は光の結晶となり、夜空に昇って星座になった。それが「じゃがりこ座」であるといわれている。
じゃがりこ座は、エビ星雲を抱く夏のさそり座が去った頃、秋の訪れとともに東の空に現れる。ひっそりと輝くこの星座は、市街地の明かりにはかき消されてしまう。秋の初め頃、郊外に行くことがあれば、夜空を見上げてじゃがりこ座を探してみるのもいいかもしれない。