邂逅 -今、この瞬間-

tanago405
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公開:2025/1/7

少し前に、瀬戸内海の島に小さな畑を借りた。

借りてまだ間もない畑にはどこからか飛んでくるのか、誰かが過去に捨てたのか、忘れていったのか、よくわからないけれどいろいろな物やゴミが結構落ちている。できればそれらをすっきりさせてから新年を迎えたい。2024年も残りわずかとなったある日、私はビニール袋と軍手を持って畑に向かった。

冬至を過ぎて間もない日差しは穏やかで、瀬戸内海はしずかに凪いでいた。梢を揺らす冷たい風が吹いていても、体を動かしているとすぐに汗ばんでくる。

埋もれた空き缶を拾おうと、上にあった落ち葉を軍手をつけた手のひらでかき分ける。すると、むぐむぐと体を寄せ合う黒い楕円形の虫たちが現れた。

え・・

ゴキb・・・

でも、よく見ると羽がない。幼虫なのだろうか、とも一瞬考えたが、それにしては大きい。大きさと色は、いわゆるGのそれである。ワラジムシ?とも一瞬思ったが、こんなに大きなワラジムシっているんだろうか?立地的にフナムシなわけはないし・・・

足の数を見て確かめる、ということができるだけの冷静さを、そのときの私は持っていなかった。落ち葉の下で身を寄せ合っていたであろう彼らが突然日に晒され、驚いて周囲の割れ目やら土の中やらに散り散りに去っていくのを、ただ立ち尽くし見ていることしかできなかった。

彼らはいったいなんだったのだろうか、と家に帰って家族に話してみた。「写真を撮ればよかったのに」と言われたが、彼らが驚いて一生懸命逃げていたのと同様に、私も驚いて一生懸命観察することしかできなかったのだ。そこにいるだけで精一杯だった。彼らも、私も。それは長いようで、瞬く間に過ぎ去ったできごと。

記憶を頼りに調べたところ、おそらく彼らは「サツマゴキブリ」であるのだろうとわかった。森林に住んでおり、羽は退化しているのだそうだ。日本では九州南部や沖縄などにおり、ソテツなどの運搬により広まったとされている。国立環境研究所の侵入生物データベース(2025年1月7日現在)によると、国内の移入分布の状況は静岡県、千葉県、和歌山県、伊豆諸島、小笠原とのこと。うちの畑は入っていない。え、見ましたよ!さっきそこで!!しかしあいにく証明できるものがない。写真を撮ればよかったのに。

それにしてもゴキブリ、というのは、文字に書くだけでなんだか躊躇する。きっと、文字を見るだけで嫌な人もいるだろう。ここまでさんざん書いておいてなんですが、大変申し訳ございません。私の場合、ゴキbはまだ大丈夫なのですがナメクジは文字を見るだけで嫌です。なのでお気持ちはわかるつもりです。家の納戸に「ナメクジ退治」というスプレーが置いてあるんですが、納戸を開けてそのラベルを見るたびに震えあがっています。

かといって「G」と書くのもなんだかしっくりこない。だってGといえば重力加速度のことでしょう、と思う。なので「ごきげんよう」と言い換えるのはどうだろう。なんとなく上品な響きになるのではないだろうか。

チャバネごきげんよう、ワモンごきげんよう、マダガスカルごきげんよう・・・

いかがだろうか。エレガントな印象が加わったのではないだろうか。

ただ問題は、いささか長すぎる感が否めない点だ。家の中で彼らと出くわした咄嗟のタイミングで「ぎゃあ!ごきげんよう!」とすんなり言えるかどうかというところが、今後の鍵となっていくだろう。

@tanago405
ひっそり更新していこうと思います。