国語辞典を買った。言葉が「あ」から順番に「ん」まで並んでいる薄い紙の厚い束。これでわたくしは、パラパラ漫画をして遊ぶのだ。パラパラ漫画をするといっても、一ページ一ページに絵を描いていくわけではない。絵はもうすでにそこにある。順番に並べられた言葉。それをぱらぱらと高速でめくっていくと、言葉たちがまるで動いているように見える。パラパラ言葉である。
基本的にはさらさらと動かしていき、一つの言葉など見えない程度の速さが美しいのだが、たまにどこかのページで止まり、「しがい【死骸・屍骸】」などの文字がパッと目に入ってくるのも、いいものである。ここに死骸が挟まっていたのね、だからこのページで止まったのね。何の死骸が閉じ込められていたのだろう。こんな厚い地層の真ん中で。
わたくしはパラパラ言葉を死骸に邪魔されたからといって、決して怒りはしない。そういう道草もわたくしの楽しむ場所であるからだ。わたくしはさらにページをめくっていく。一瞬の間に、言葉たちの輪郭が解けていき、言葉たちのほんとうの意味の形になるように思える。そんなことを言ったら、言葉など、意味がなくなってしまうだろうけれど。
とき、くりかえし、フレー、つめ、テリーヌ、……わたくしの前でたくさんの言葉たちが現れては消えていきます。ここにあるのは文脈から離れた言葉。ただ形と音の響きと意味の説明だけが流れていきます。川となって、流れていきます。新しい地層をつくるために、流れていきます。