人生訓

tato
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若い頃の話。

歯医者で次回の予約をした後に、その日は誕生日だと気が付いた。別の日にしようかと一瞬考えたが、誰が祝ってくれるでもなし気にすまいと変更をせず当日。

治療中ずっと

『今日誕生日なのにこんなに痛い思いを…』

『今日誕生日なのに口の中血まみれ…』

治療が終わっても

『今日誕生日なのに歯医者で痛い思いして金まで払ってる…』

と、誕生日+三点リーダのコンボが脳内で続いた。これが誕生日じゃなかったら『痛かった』『高かった』で済む話だったのに。おのれ誕生日。いや誕生日に歯医者の予約を入れた10日ぐらい前の私。

せめて美味しいものでも買って帰ろうかと思ったが、麻酔が切れるまでは飲食出来ないし何よりテンションが上がらない。何も買わずに帰宅。

麻酔が切れる頃に空腹が限界に達する。だが家には米と酒しかない。買って帰ればよかったと後悔しても遅い。ご飯が炊けるまで待てない。今食べたい。すぐ食べたい。と、目についたのは酢大豆。

酢大豆。それは炒った大豆を酢に漬けたもの。1980年代にダイエット食として流行。2000年代には流行から完全に消え失せていたが、私は酒のアテとして酢大豆をせっせと作っていた。飲酒での健康度大幅マイナスを酢大豆でプラマイゼロ…は無理としても、ややマイナスぐらいにしときたいという当時のいじらしくもいやしい気持ちの結晶の大豆。

その酢大豆は漬けたばかりなので全く漬かっていなかった。でも空腹には勝てず食べた。酢がびりびりと酸っぱく、炒り方が雑だったせいで大豆は一部固い。口の中はまだ血の味がする。誕生日のディナーは酸っぱくて固くて血の味がする大豆。

こんな一日はもう沢山と、いつもより早く寝たら深夜に腹痛で目が覚めた。生の大豆とほぼ原液だった酢のせいで胃腸が壊れたようだ。

トイレで思う。誕生日に歯医者を予約してはいけない。

@tato
書きたいときにしか書かないことにした