関係性への憧れ【追記】

tato
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川上弘美の作品で「センセイの鞄」が一番好きなのだけど、ツキコさんとセンセイがセックスをするのが自分の中で納得いかなくて大好きですと言い難かった。加えてドラマ化されたときのセンセイ役が柄本明だったのが納得のいかなさに拍車をかけた。

そういった理由で、川上弘美で一番好きな作品は「さやさや」としていた。川上弘美を初めて読んだ「溺レる」の1作目。読んだ当時、食べたことのなかった蝦蛄に対して美味しさとエロティシズムを過剰なまでに期待した。いざ食べて感じたのは美味しさよりも泥臭さ。エロティシズムよりもグロテスク。座学より実践。学んだ。

「センセイの鞄」のツキコさんと先生の関係に強い憧れがあった。大人の異性同士がなんとはなしに会い酒と肴を楽しむ。年上の異性、しかも教師というのがよかった。学生時代は上下関係があったものが年を経て飲み仲間として交流をする。

それがツキコさんが恋愛に気付いてしまう辺りからもやもやしてしまい、読み終えて面白かったのと同じぐらいがっかりもした。理想郷が壊されたような気持ち。期待が過ぎたのか。

その後あまり好みではない作品を読んでしまい川上弘美から離れていたが、ツキコさんの年齢を上回った今無性に読みたくなった。

読み返して気付いたが、センセイはかなり早い段階からツキコさんに好意を持っていたのだな。「ラッキーチャンス」のからかい方は好きな人へのあえての意地悪、男の子がすることだ。

小島の登場で恋愛になだれ込んでいくが、もし小島がいなかったら2人はいつまでも底にある情愛に気付かない、気付いても想いを秘めつつほんわかとした交流を続けていたのだろうか。

当時の私はこの作品をピュアなおとぎ話と捉えていた。なにせほんわかとした交流を続けていてほしいと思っていたから。実際は愛欲が酔いや夢の姿を借りて現れるというか、だだ漏れている。周囲から見たら肉体関係があるようにしか見えない。おでん屋でピアスボーイも絡むわけだ。なので小島がいようがいまいが恋愛は時間の問題だったろうし、情が深い分セックスは必然なのだろう。

納得はしたけど私の理想郷は壊れたままなので、少し寂しい。


ここまでは豚モモスライスと新玉ねぎをしゃぶしゃぶしながら日本酒を飲みつつ書いた。「島へ」まで読み終えていた。

今朝全て読み終えた。当時ショックを受けていたセックスシーンは2人の息がぴったりと合ったスピーディーな流れ作業で全然いやらしくない。寧ろ「公園で」のベンチシーンが愛欲のピーク。夕暮れ時は吉行淳之介の「夕暮れまで」を自動的に思い出すので、それだけでいやらしい。

最終話のエピソードがほぼ抜け落ちてのいたのはなぜだろう。あまりにもあっさりと終わってしまったことを尻切れトンボのようだと解釈したからだろうか。

ぱすっとした終わり方でよかったと今は思う。人生はあっけないものだから。

@tato
書きたいときにしか書かないことにした