ひょんなことから中学時代の友人と街で出会った。卒業して10年は経って以来の再会だったのであれやこれやと話も弾み、この近くに住んでいるのでよかったら今度家でゆっくり話しましょうやという段取りになった。それから遊びに来るではなく泊まりにくるになり当日。友人は来た。
ご飯を食べいろいろな話をして翌朝。私は仕事があったので、友人と一緒に家を出てエレベーターを降りる。外に出てそれではまた、というところで友人は一言。
「私のこと、馬鹿にしないでよね」
そのまま振り返ることもなく去っていった。
それきり会うこともなく現在。何を話したのかもてんで覚えてはいないが、相手を馬鹿にするような発言は特別してはいないはず。
しかしこの思い出は何かに似ている。ずっとわからぬままだったが、ようやく思い至った。太宰治の「親友交歓」だ。なるほど。