年末に父親と会った際に今度電子レンジを新調しようと言って別れた。年が明けて彼は死んだ。
火葬場で父親が焼き終わるのを待つ間、私は熱燗を飲みながらタブレットで小説を読んでいた。火葬とは高火力で一気に燃やして10分程度でおしまいだと思っていたが、焼いた後に冷やす時間もあるそうで実際に骨と対面するのは2時間ぐらいかかるのだそう。焼き上がる頃に呼びに来ますねと、担当者はどこかに行ってしまった。火葬場には時間を潰すところもなく、売店兼食堂兼フリースペースのようなところで時間を潰すことにした。
アルコールを入れてもあまりおもしろい気分にならないなと気が付いた頃に、焼き上がりを告げられた。棺のある小部屋へと向かう。小さな部屋で、私と私の交際相手と葬儀会社の担当の3人が骨と向き合う。親戚とも縁を切り人間不信を公言していたせいで友人もいなかった。3人もいれば上等だろう。
骨を見ると焼ききれなかった大腿骨が丸々一本あった。生への執着がないと散々嘯いていたが、見事な大腿骨をこの世に残した。骨壺に入るサイズまで砕いてもいいと言われたが、せっかくなのでそのままの形で残しておいた。残された骨は一般廃棄物として処理されるそうだ。
家にあった電子レンジは職場に持って行った。今でも現役だ。