Whelk

tato
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約20年程前の話。私は友人と回転寿司屋に行き炙りサーモンを堪能していた。当時の回転寿司はタッチパネルなどなく、レーンにない寿司は店員に直接注文をして流してもらう仕組みだった。

肌色のような白っぽいような貝が4皿、目の前のレーンを通り過ぎた。誰かが注文したものだ。メニューの写真を見ると、それはつぶ貝だった。しばらくしてまたつぶ貝が4皿。流れゆく先には初老の男性が1人、皿をすいすい拾い上げほいほい食べていた。食べ終わると店員を呼び、レーンにはまたつぶ貝が流れる。

私は店員を呼び、つぶ貝を注文した。私も、と友人も頼む。男性のつぶ貝が4皿、私たちのつぶ貝が2皿レーンに放たれる。

そして私たちはつぶ貝後の世界を知る。もう前には戻れない。店員を呼びつぶ貝を注文する。気付くと男性の姿はない。

あのときあの人がいなかったら、うちらはつぶ貝を知ることはなかったんやね。

友人は言った。時は経ち現在。あの日行った店はもうない。

つぶ貝の師匠やね。

艶々しく瑞々しいつぶ貝が2皿、目の前にある。あの日食べたものよりも瑞々しく艷やか。お値段もなかなか。

いや、神様だよ。一口で頬張るとわさびの強さに涙が出た。

@tato
書きたいときにしか書かないことにした