母親は嘘ばかりついていた。いつ聞いても母親の年齢は24歳で、いとこと言われていた人は腹違いの姉だった。
我が家の先祖は江戸時代に殿様に付いてた偉い医者だったので美しい言葉遣いをしなければならない。だからおかあちゃまと呼ぶようにと、ある日急に言われた。「様」ではなく「ちゃま」のどこが美しい言葉遣いなのかはわからないが、当時4-5歳だったので素直に受け入れた。小学校低学年辺りまでおかあちゃま呼びだったが同級生に笑われたので止めた。あの時おぼっちゃまくんが連載されていたら、間違いなくあだ名は茶魔だったろう。因みに先祖は御殿様お抱えの医者ではない、素性も知らない何者かだ。
オカリナが欲しくて母親に買ってくれとせがんだ。どうしてオカリナが欲しかったのかは忘れたが、とにかく欲しくてたまらず断られてもしつこくせがみ続けた。
ある日、母親は私に紙袋を手渡した。オカリナだと言う。袋をざりりと破ると鳩の置物が入っていた。尻尾に口をつけて吹くと鳩の嘴から音が鳴ると言われた。やってみるとボォボォと低い音がした。オカリナじゃない。これは鳩だ。しかし母親はオカリナだと言う。オカリナは鳩みたいな音はしないと反論したが、オカリナは鳩みたいな音がするのだと返された。納得はいかないが説得もできず、表現できない言葉を鳩に託した。ボォボォ。つまらなそうに鳩は鳴いた。
後年どこかのお土産物屋でオカリナと言われたものが売っていた。鳩笛と書いてあった。
からかいは母親なりの愛情表現だったのだろう。今ならわかるのに、今までわからなかった。