今も強くはないけれど子どもの頃の私は心身共に弱かった。すぐ発熱したり腹痛を起こしたり。
ある日も発熱した。首がぼこりと腫れ上がり熱を帯びている。これは大変だと病院に連れて行かれた。医師は首のリンパ節が腫れているが特に大事には至らないと母と私に告げた。母は安心し、私は「リンパ節」という未知の病気にかかったことに興奮した。
もちろんリンパ節は病気ではない。だが10歳の私にはわからない。学校を1週間程休み、翌週私はリンパ節にかかったのだとクラスの子らに吹聴した。私の属す社会ではリンパ節は病気として受け入れられた。
健康診断の季節になった。問診票の既往歴に私は「リンパしゅ」と記入した。問診時、医師はリンパ腫?!と言った。血液のがんだ。喜々として病状を説明すると、それで問診はおしまいとなった。
翌年の健康診断。どうもリンパ腫じゃないようだと気付いた私は母親に聞いて誤りを正し、問診票に「リンパ節」と書いた。問診時、医師からリンパ節が何?と聞かれた。リンパ節ですと返した。問診は終わった。
小学校を卒業するまで私は既往歴にリンパ節と書き続けた。中学に入ってからは書くのをやめた。リンパ節が何かようやくわかったからではなく、問診時のやり取りが面倒になったからだ。私の病気は人知れず胸に秘めておこう。
人体機能のテキストを読んでいたらリンパの項目を見つけて、ふと思い出した。首筋に触れると少し熱かった。