毎朝同じ時間に同じルートで通勤していると、同じ時間帯にすれ違う人の存在に気付くようになる。知っているけど知らない人たち。挨拶することもなく、存在だけを確認する。
ほぼ毎朝見ていたのに、ある日を境に日常から消えてしまう人もいる。事情はわからない。
ある日、通勤路の途中にある公園で歌っている男性がいた。スーツを着ていたので通勤前の一歌いなのだろうか。アカペラで演歌を唸らせる姿と朝の風景とのアンバランスさに、見てはいけないものを見た気持ちになった。
それからほぼ毎日のように彼は歌っていた。真っ直ぐな姿勢と真っ直ぐな視線。歌声も真っ直ぐに伸びていた。初めて見たときに感じたアンバランスな風景は、いつもの風景へと変化していった。
そんな朝の日常から、彼がいなくなってしまったのはいつだったか。緊急事態宣言が出た頃か。気が付いたら消えていた。
誰もいない公園が毎朝の日常となった今でも、時々歌声を探している。