ドア

tato
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仕事始めの午後、携帯の電話が鳴った。デイケア施設からで、年が明けてから父親が来ていない。電話にも出ないので確認してほしいとのことだった。老人しかいないから数日通ってやめたと以前話していたが、継続していたらしい。早退しタクシーを拾う。

父の家に着いた。私も5年ほど一緒に住んだことがある。まずはドアフォンを押す。今までそれで扉が開いたことはないのだが押す。少し待ち鍵を開ける。こもった空気、薄暗い室内。猫が玄関まで走ってきた。猫は居間で生活し、父は寝室で生活している。寝室を覗き、それから救急車を呼んだ。

自宅での死亡は変死扱いとなるため救急以外に警察も呼ばれた。発見当時のことなどいろいろと聞かれ、検死のため遺体は一旦警察が引き取っていった。

静寂、喧騒、静寂。猫が足に纏わりつく。餌皿が空っぽだったので餌と水を補充。猫は満足するまで食べ飲み、それから居間で眠った。

夜になり検死が終わったと電話があったので警察署へ。

12/31の明け方に心臓発作を起こして亡くなられたようです。心臓を悪くしていたのに薬を飲むのをやめてしまったようですね。所持品をお返しします。死亡の詳細な原因は解剖をしないとわかりませんがどうしますか。されないですか。葬儀会社は決められましたか。まだなら紹介できますが。結構ですか。ではご遺体と所持品の引き渡しのための手続き、それと諸費用の支払い等─

葬儀会社にあてはなかったので、携帯で「安価 葬儀会社」と検索し上から3番目に出てきたところに電話をした。すぐに来てくれて、あとはこちらでやりますからと交渉を引き取ってもらう。

警察から次の舞台は葬儀会社へ。ずっとお金の話。警察でかかった諸費用は葬儀会社が立て替えたので後でまとめて請求するとのこと。因みに諸費用とは遺体を運搬する袋の代金が主で、当時は1枚5千円だった。高額な理由は使い回しが出来ないからだそうだ。解放されたのは深夜少し前。

車での帰り道、FMからラジオドラマが流れていた。一文無しの若者が汚職の監査に来た官僚と間違えられて、市長や役人たちから盛大なもてなしや賄賂を受ける話。ゴーゴリの「検察官」だった。

@tato
書きたいときにしか書かないことにした