2025.09.19 金

納税者
·
公開:2025/9/19

夏ソロに書こうと思ってたネタを少しづつ書いていく

「何だよあれ。教習所の飛び出しシミュレーションか?雑な演出しやがって。」

振り下ろした拳がフードコートの一角で行儀良く並んでいるテーブルの天板を叩き、乱暴に着地した拳の隣で中身を空けられたままの紙コップが怯えた。教習所ってああいう感じなの?トレーに散ったポテトの山から長い1本を見定めながら問うと「知らねえよ。俺、まだ教習所行ける歳じゃないし。」と呆れた声が落ちてくる。長いポテトが良いけれど、油を吸ってクタクタになったやつは嫌だ。選り好みをしていると隣のテーブルからサーティワンが食べたいと駄々をこねる子供を叱る母親の声が転がり込む。素直に生きているだけなのに責められている。僕は久我のお母さんではないから、素直で支離滅裂な理論に「そうなんだ、すごいね。」と終止符を打ってとびきり長いポテトの端を摘んだ。

高校生の夏休みといえばバイトか受験勉強かイオンモールだ。短期バイトでこの夏の小遣いを貯めきった僕は、残り一週間となった夏休みのうちの貴重な今日を富豪のように散財して過ごしていた。本当は九月一週目に予定している英語のテストに備えて英単語を覚えても良かったのだけど、観たい映画があったらしい久我から前日二十二時に「明日映画観ようぜ。十四時の回な。」と一方的にチケット予約完了のスクリーンショットを送り付けられ、約束の一時間前に「着いた」とスマートフォンを鳴らされ、上映前に映画館ロビーのソファを陣取りポップコーンを片手に原作への愛を聞かされ、入場後に「俺、真ん中がいい。」と僕の手からチケットに皺を入れながら引き抜かれ、そうして僕は中央から一つ右にずれた席へ着くこととなった。ホラー映画と聞いていたので正直かなり身構えていたけれど、上映が始まって直ぐにそれは杞憂だったと気付くこととなる。現代日本の田舎町が舞台のその物語は日照り続きであるのに川が深く、電柱がないのに電話が繋がり、日が暮れると脈絡なく異形の怪異が主人公の行く手を阻むという幼稚な混沌の世界であった。延々と続く魑魅魍魎の時間に慣れきった僕は、あれだけ張り切っていた久我を気の毒に思い視線を寄せる。長い横髪が表情を隠していたが、手元のドリンクに刺さったストローが散々噛まれて力尽きている。ああ、相当不満なんだな。思ったタイミングでスクリーンが赤く光り、主人公が大きく悲鳴をあげる。久我の中でもレッドカードが上がったらしく、スクリーンに視線を向けたまま「腹減った、行こうぜ。」と口だけを動かし、そして堂々と席を立った。

「前半で下げて後半で上げるタイプの映画だったんじゃない?」ほら、あるじゃん。前後編で全然印象が違う映画って。テーブルの上で静かに眠っている呼び出しベルを起こさないよう静かに声を掛けると、

@taxpayer
最初の1行だけ本当 あとは全部嘘