太陽の帝国

瀬崎 鵜
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今朝は雨で、冬のコートを着て出かけた。このところ陽気が続いていたのに急に寒々しい天気になったから面食らっていたのだけれども、午後になって晴れ間が見えるとやっぱり暖かくなり、もうコートは不要だった。ここは結局、どうしたって春にいる。

このところスピルバーグの「太陽の帝国」を見ていたのを、今日やっと見終わった。上海租界、スタジアム、蘇州へ向かう道のり。バラードの文章からイメージする通りの風景がずっと広がっていて、ただただそのことに感動していた。作りあげられた二時間。スピルバーグの光、明るい夢の中のような、エネルギーに満ちたセンチメンタル。忘れ難い印象を残す一方で、この映画には原作が孕んでいる狂気が足りていないと感じた。原作において、今や死んだ者こそが生きており、生きている者の方が死んでいるのだと描写されたような、そういう切実な感覚をこの映画はもたらさないと感じた。それでもクリスチャンベールの演技は凄かった。この人の中にはジムがいた。

ジムは空襲を歓迎した。キャンプ上空を飛翔していくマスタングの轟音を、オイルと無煙爆薬の臭いを、パイロットたちの死を、さらには自分自身の死の可能性さえをも歓迎した。自分にはまったく価値がないということがわかっていた。ジムはラテン語の入門書をひねり、ひそやかな飢えに──戦争がこのうえない熱を込めて満たそうとしている秘められた飢えに、身を震わせた。

J.G.バラード 山田和子訳 太陽の帝国 東京創元社