これからどんな人生が待っているかわからないけれど、今の時点では、この高校3年間に「空白」というラベルを貼ってしまいそうになっている。それは、この3年間で起きたこと、出会った人、その全てに失礼なことなのかもしれない。これはすべて自分自身の問題であることは明白だった。それでも自分自身を護りたくて、こうしてしまうのだと思う。
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「EARTH」のアルバムは、はじめて買ってもらったCDだった。多分あのとき、小学校で”RPG”とか”Dragon Night”とかで SEKAI NO OWARI が流行っていたのだと思う。父親がディスクユニオンに行くのについていったとき、安く売られていた中古の「EARTH」を持って、これを買ってほしいとお願いした。自分の意志で好きになったアーティストはセカオワが初めてで、それまではずっと両親の影響で洋楽、それもロックしか聴かなかったから、初めて自分の意志で聴いた邦楽も、セカオワが初めてだったと思う。
あのときはなにを思ってこのアルバムを聴いていたんだろうな。もう思い出せないのが悔しい。車でおばあちゃんちに向かいながら、窓の外に”幻の命”を大声で歌った記憶とか、小6のときに廊下で友達が”虹色の戦争”を大声で歌っていたこととか、そういうことは覚えている。
あのときは邦楽をセカオワしか知らなかったけれど、あれから色んなアーティストの音楽を聴くようになった。たくさんのアーティストで耳が飽和して、セカオワの音楽を一時期聴かなくなったこともある。でも高3になった今、また、この「EARTH」に戻ってきた。初めて聴いた時のことを覚えていないから何とも言いようがないけれど、確実に、昔とは違う色を持って、セカオワが押し寄せてきている、そんな気がする。
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―「未来」は部屋に来ないから 僕が迎えに行かなくちゃ
「EARTH」の最後、6分48秒を静かに進む、”白昼の夢” 。
この曲の中で、この歌詞が、意志をもったように耳に響いてきたのは、つい最近のことで、つまるところ、それまでこの歌詞のことをただ聞き流していた。でも、あるとき、ようやく気付いた。「未来」は迎えに行かなくちゃいけないものなんだってことに、ようやく。ずっと夜がいいな、なんて思っていたことも忘れるくらい時間は過ぎて、朝と夜の繰り返しにも慣れてきたころだった。
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言われなくたって分かっていることは、たくさんある。言われても分からないこともある。確かなことは、意外と揺れ動いたりするから、ここにあるのは、「今」確かだと思っていることだ。未来でそれが確かじゃなくなったり、新しい答えが見つかるように、未来を迎えに行く必要がある。
高校生活が「空白」だったのは、きっと自分で未来を迎えに行かなかったからだ。考えてみれば、選択肢なんてたくさんあった。この学校以外じゃなくても選択肢はいくつもあったし、この学校を選択したあとだって、なんでもできた。環境に恵まれているというのは、母親に言われなくたって百も承知だ。やりたいことがやれる環境にいて、それでも「なにもしない」という選択肢を選んだのは、他でもない自分自身だったのだ。
「結果で君たちの価値が奪われることは決してない」
というのは、高校受験の前に塾の先生がくれた言葉だったけれど、本当にその通りだと思う。今まで、ずっと結果のせいにしてきたものは、なにも結果のせいではなかった。多少の環境要因はあれども、自分の価値を奪ったのは自分自身だったのだから。
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「空白」だったとしても、本当は、よく見たら、小さなものがぽつりぽつりと咲いている。でもそれじゃあ満足できないっていうのが、本心だと思うし、だから高校3年間のことを「空白」と言ってしまう理由なのだと思う。たくさんの人に会っているし、たくさんのものに影響されている、と、母親にはそう言われるけれども、自分ではイマイチぴんとこない。少なくとも、もうちょっと頑張れたんだろうな、そんな気がしている。
自分の価値を奪ったのが自分自身なら、自分でその価値を取り返さないといけない。3年間が「空白」とまでは言わずとも、自分にとってなにかが足りない3年間になってしまったのなら、その分の穴埋めが必要だと思う。高校生活で失ってしまったものは、自覚している。みんなが共通テストを受けている間に、こんなただただ自分のことについてだけを考えていられるこの状況は、恵まれたものだ。大学生活の始まりまであと残り2か月ほど、そんな短期間で今までの償いができるとは思っていないが、全速力を出すためには、まずは屈伸から始めないといけない。その次に伸脚をして、手首足首を回して、そうやって順番にやっていくから、走れる。それを忘れかけていたけれど、順番よくやればいいよな、と一旦自分を落ち着かせる。先の塾の先生が言っていたことをもう一度、思い出す。
「結果がわからないという不安、恐怖に支配されそうになったら、姿勢と息を正しなさい。結果で君たちの価値が奪われることは決してない。ただ真っすぐに自分への挑戦を続けなさい。」
自分で自分を取り戻さなければいけないのだと、強く思う。