くわえた煙草に火をつけて、煙を吐き出す。すると、お前がやってくる。白く揺れる煙が徐々に人のような姿をとって、ぼんやりと立ち現れる。お前はものを言わない。ただ立って、座って煙草を吸うおれを見つめている。時折ゆらぎながら。おれはお前のことを誰だか知らないが、忘れているだけのような気もする。だが、お前はきっと、おれのことを知っているのだろう。
煙を吹きかけてやっても、お前は厭な顔ひとつしない。仏像のように緩やかに微笑んでいる。おれはお前に話してきかせる、おれの、つまらなくて退屈な日常について。お前はただ、じっと立ち尽くしている。煙草が短くなると、お前はおれを静かに抱きしめる。煙の腕のなかで、おれはお前の名前を思い出そうとするけれど、あともう少しのところで、いつもお前は消えてしまう。