積もる話が積もりすぎている

手羽先700
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 一晩で世界中が真っ白に染まってしまったようだった。雪かと思って手で掬ってみると、それは「話」だ。話が積もっている。

 白い世界の地平線で、誰かが手を振りながら歩いてくる。彼だとすぐに気がついた。27年前と変わらない笑顔で、ひらひらと手を振っている。思わず駆け出していた。飛びついてやろう、学生の頃ふざけてそうしていたように。そんな風に考えていたのに、駆け寄って交わしたのはやわらかな抱擁だった。「ひさしぶり」と彼が言う。きちんと温度のあるからだで、僕を抱きしめて、僕に抱きしめられながら。「たくさん話したいことがある」僕の喉が絞り出した声は情けないほど震えている。知ってる、とやさしく彼は言う。いつのまにか僕も27年前の姿になっている。それで、ああ、僕は死んだのだなと気がついた。この真っ白な世界が天国でも地獄でもどうでもいい。積もりに積もった話をしようじゃないか。

@tebasaki700
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