ここを離れて、人間として暮らすことに決めた。そう告げると、友人は寂しそうに笑って、「うん。お前はこんなとこにいちゃいけないよ」と言う。いつかみた映画のことを思い出した。タイトルが思い出せないけれど、こんな風に友達を送り出すシーン。ああ、映画みたいだなあ、と思うと涙がこぼれ落ちてしまいそうになって、空をあおいだ。友人がただ一言「行くな」と言えば、俺はうすく血の繋がった人間の家族も、人間としての自分も、何もかも放り出すことが出来るだろう。けれど、彼はただ背中を押すだけだった。彼のことがどうしようもなくいとしかった。今すぐ抱きしめて、こぼれ落ちた涙で友人の肩を濡らしてやりたかった。夜を満たすように梅のかおりが漂っている。俺たちはただ黙って、最後まで友人であり続けた。