常設展はいつでも観られるし変わり映えもしないからと言って、いつも特別展の方ばかりに足を運んでいた。
その日美術館を訪れると、「現在販売しているのは特別展のチケットのみです。常設展はご覧いただけません」と受付係が告げた。もちろん、特別展だけを観るために足を運んだので一向に構わない。チケットを購入して中へ進む。左に折れると常設展、右に折れれば特別展。左の通路には黄色いテープが貼られて、来場者の侵入を拒んでいる。「常設展は逃亡しました」と書かれた紙がテープの上から貼られている。
目当ての特別展を観てまわる。ずっと、かつて観たはずの常設展を思い出そうとしていた。誰の、どのような作品があったのかを。けれどひとつも思い出すことは出来ない。
逃げ出した常設展の作品たちは今頃どこで何をしているのだろう。うすらぼやけた春の中を逃亡する絵画や彫刻たちを想像して特別展に集中できないまま、惰性のように館内を歩き続ける。
※学生時代に課題で書いたものをリメイクしました。