ずっと忘れないように、というよりは、忘れてもいいように、春を瓶に詰めてとっておくことにした。川を渡ってきたどこかなまぐさい風も、ぼやけたひかりの粒も、ぬるくてまろやかなエーテルも、新しい芽からあふれる電磁波も、すべてを瓶におさめた。手のひらのなかで、瓶はかすかにあたたかく、生きているようだった。それをコートのポケットに仕舞う。これでもう、わたしは、自分が発生した季節を忘れても構わないのだ。私小説手羽先700文章を書きます。