鯉のぼりのようにゆるゆると身体を靡かせながら、龍はうろこ雲のなかを泳いでいる。翳る陽のひかりが龍の鱗を重く、にぶく、輝かせる。
小さいころ、龍を間近で見たときに「鱗がハッピーターンみたい」と言ってばあちゃんに怒られたことを思い出す。かれらの鱗は鱗粉のようなものを含んでいて、稲穂のようなやわらかなこがね色をしている。
空を泳ぐ龍が身を震わせるたびに、稲光が発せられる。その光はあらゆる実りを運ぶらしい。秋の龍がいっとう美しいと、ばあちゃんは言っていた。ばあちゃんがこの世界を去ってからもう随分と経った気がする。けれどそれは気のせいで、まだ一年も経っていない。
龍はおりはじめた夜の帳を掻い潜るように飛んでいき、やがて見えなくなった。時折思い出したように、稲光は空を走っている。音さえ伴わずに。