有能な後輩が退職することになり、私の仕事は立ち行かなくなりはじめた。しかしこの腐った職場に後輩を留めおくつもりは毛頭なく、新しい土地で新しい仕事をし、人生を謳歌する後輩を心から祝福した。
そして、私は後輩のホムンクルスを造り出すことに決めた。
「保育器」から出てきたホムンクルスは手のひらで包み込めるほど小さい。幼児のような顔をしているが、どことなく後輩の面影がある。これを育てて後輩の後釜として仕事を手伝わせるつもりだった。けれどその目論見は見事に外れることになる。私はそれをホムンクルスとして見ることが出来なくなった。犬や猫を慈しむような気持ちが湧き上がるという大誤算。この子には人生を謳歌する権利があるのだと、心の底から信じてしまった。
冬が終わり、首巻と重たい外套を仕舞う。少しばかりの肌寒さを首筋に感じながら、地獄のような職場へと繋がる、長い長い階段を上っていく。春めいた日差しは、やけに眩しく目に刺さる。