いつものようにあなたは広げた紙を睨みつけながら頬杖をついている。おれはその紙に広がる世界のことはひとつも知らないし、理解することも出来ない。あなたは自分が書きつけた文字(それは普段の振る舞いからは考えられないような、静謐な佇まいをしている)を、忌々しそうに消しごむで消していく。まるで削りとるように。捩れた黒い消しくずは、あなたの右手に払われて雁に変わり、藁半紙の上を隊列を組んで飛んでいく。「あ、雁が」とこぼれたおれの声に、あなたはいつものように生返事をして見向きもしない。雁の群れは遠くへ飛んでいくように藁半紙のなかで小さくなって、消えてしまった。