はじめに
この記事は設計者が自作キーボード Induction について紹介するものです。前回同様, 設計に関する細かい記述は多くありません。この度も X でいう長めのポストだと思っていただけると幸いです。
40%キーボードは世の中に数あれど, テンキーまでついた4行キーボードとなると一気に数が絞られます。Induction というキーボードの構想は Num Row を取り除いた4行タイプの40%キーボードをメインとしつつも, マクロパッドやテンキーとしても使える領域を, ひとつのキーボードに搭載したいという私のわがままから始まりました。
Index
コンセプト
レイアウト
仕様
PCBとケース内構造
ケース外観
ブロッカー
ギャラリー(更新中)
おわりに
コンセプト
1. 一般的な Base kit で構成する
自作キーボードに入門してすぐの頃, 何度も直面していたのが, 「このサイズのキーキャップ…持ってない…」という問題でした。そのため設計開始当初から使用に困らない最低限のレイアウトは必ず Base kit でまかなえるようにすると決めていました。特にスペースバーまわりのレイアウトを考える際は, 6.25uスペースバーが使用できることを絶対条件としました。
2.アクセントカラーとなるキーを利用可能にする
魅力的な差し色の入ったキーキャップを購入したのに, 40%キーボードにつけたらなんか違う…という道も何度も通りました。コンパクトなサイズにするため, より小さなキーキャップの使用が選択されているキーボードでは, セットの華となるアクセントカラーのキーが使えないことがままありました。Enter や Modifier のカラーキーを余さず配置しつつ, アルファ部分からスペースバーに向けての Vラインも崩さないことを重要視しました。
3. レイアウトの選択肢を充実させる
理想のレイアウトやキーマップの議論を拝見するのはとても好きですが, 私自身はキーの配置や打ちやすさにあまり頓着がなく, 理想のレイアウトというものも特に存在しません。そのとき使いたいキーボードやキーキャップの配置に身体を合わせて使うというタイプで, 軽率にスペースバーの分割数を変えたりしてタイピングを遊んでいます。まだフワ付いている私だからこそ色々試してみたい…そんな理由でレイアウトの選択肢に幅を持たせました。
……コンセプトとして文章にするとなんだか大仰ですが, これら3つの方向性を実現するには, ある程度スタンダードなレイアウトを持つ既存のキーボードを省キー化するのが最も近道と悟り, 古今東西の横長キーボードを見漁り英気を養いました。
Reference: Cherry G80-0530 / W1-AT / Cycle7 / TENET70
レイアウト
おおまかなレイアウトは2種類から選べます。トップケースを点対称で設計しているためケースはどちらも共通です。後述しますが Induction では専用に設計したブロッカーを導入することでさまざまなレイアウトを実現できます。
Bottom Row を除いたレイアウトの選択肢はこちら。
Spacebar は上記の4種類に対応。6.25u については専用ブロッカーを使い WKL 風のスタイルにすることで使用できます。
6u は 2x3u に分割可能。
6.25u Spacebar の分割。こちらはサムクラスタ向けです。
仕様
Product Name: tt-01 Induction
Size: 424.0 x 96.2mm
Typing Angle: 6.5 degree
MCU: RP2040 on board
Firmware: QMK / Vial
TinyType にも使用した 2x2u サイズのマイコンボードを使用しています。
前作 TinyType は Induction で使用したい機構(FFCでの接続, マウント方法, ケース構造など…)を小さいサイズでテストするために制作されました。クリアランスなどの課題を事前に解消したため, 幸いにも Induction には大きなミスもなく一度目の発注で無事完成となりました。
PCBとケース内構造
Macro | Main | Numpad の3つの基板を FFCケーブルで接続します。左右の位置はケーブルを差し替えたのち, トップケースを反転することで入れ替えが可能です。その際, ファームの書き換えは不要です。
トッププレートには小文字の t をモチーフにしたスリットを入れています。(flex cut はあくまで装飾と割り切っている派です)
小型ドローン用のショックアブソーバをマウントに使用しています。私は特に打鍵感には明るくないですが, 跳ねる様な触感がなかなか気に入っています。
ボールキャッチ機構とネオジム磁石を採用しており, スクリューレスでケースの開閉が可能です。軽く力を入れるとトップケースをパコッと外せます。ホールド自体はかなりしっかりしており, トップケースのみを掴んで持ち上げても外れることはありません。
ポロンフォームをクッションとしてケース上下に貼り付けているため, ケース同士が擦れる音やズレ, 干渉音などもありません。
ウェイトには Amazon などで手軽に手に入る文鎮を選択しました。重量をさらに追加したいときのためにフラットバータイプの穴も空けています。トッププレートと PCB に付属する銘板はボトムケースに収納することができます。フルカスタムでの重さは約 1.3kg でした。
フォームは現在3種類, 遊舎工房さんが IXPE フォームのサービスを検討されているそうなので, オリジナルの Switch 用フォームを作成できる日も近いかもしれません……楽しみです。
(余談)
※設計中の PCB のようす, 当初はロータリーエンコーダーも搭載する予定でしたが, コンセプトにそぐわないとして途中で取り除きました。そのおかげで, 一部気になっていた配線箇所がこのあともう少し整理されています。
ケース外観
ベゼルの太さは 0.5u (9.525mm) で統一しています。サイドは半円筒形になっていて滑らかな手触りです。このデザインは過去作 Jettison や TinyType を踏襲しています。シンプルな形ですが気に入っており, 今後もこの方向性で制作を進めるつもりです。
背面には小さくマークを刻みました。
ケース設計中のポストです。ほぼ完了と書いていますが現在のものと比べるとそこそこ変更しています。発注に使用した最終的な構造はこちら。
ブロッカー
キースイッチを模した構造の専用ブロッカーを設計しました。
Bottom Row の複数レイアウトに対応するため4種類 (0.875u / 1u / 1.5u / 2u) 用意。なお, このプロダクトに関するすべてのモデルは Plasticity で制作しています。おすすめです。
以下使用例です。
WK
WKL(1u使用)
HHKB風(1.5u使用)
ブロッカーは左右の基板にも使用できるため Numpad が不要な場合は一部を埋めてしまいアローキー風にもできます。今後ブロッカーの種類は追加する予定です。
ギャラリー
前作 TinyType との一枚。
鋭意制作中の 10u spacebar (7u stems) と BAE を付けた様子。
念願の自設計キーボードでの KEEB_PD 優勝できた記念。
初めてのケース塗装完成記念。
この写真をきっかけに, 左右入れ替えができることに気づいてくださった方が何人かいらっしゃってとても嬉しかったです。
一見するとスタンダードなキーボードに見えて, 実は 6.25u spacebar を使っていたり, 自作の BAE が載っていたり, 左右が入れ替わっていたり…とやりたいことがたくさん詰まっている写真で, 個人的に気に入っています。
おわりに
この記事は単に, キーボード設計者のみなさま恒例のあの結びの一文を, わたしも書いてみたい…!という邪な目的から書き始めました。自分で制作したキーボードを紹介するだけにもかかわらず, 拙く冗長な文章になってしまったことをお許しください。
キーボードの設計にチャレンジし始めて一年ほど…ようやく他所様にうちの子を知ってもらいたい…と思えるものを作れた気がします。
最近は, 遅々とした歩みで, できることが少しづつ増えてきたいっぽう, これまで見えなかった粗や知識不足に気付きはじめ, 失敗と反省を繰り返す日々です。自分の性格でもあるのですが SNS など眺めているとつい, ものづくりの自信を失ってしまいます。
しかしそれはそれ…この記事を書いているただ今だけは…束の間の達成感に酔いつつ, 手探りにも最後まで走りきった自分を褒めてあげたいなと思います。
それでは
この記事は Induction を使って書きました。